2010年7月22日木曜日

アニメーター育成検討委員会について

このプロジェクトは、その正式名称が「若手”アニメーター”等人材育成事業」と冠しているとおり、アニメーターの人材育成を主たる目的としています。プロジェクトの根幹、アニメーター育成の具体的方針を定めるのが、アニメーター育成検討委員会です。

アニメーター育成検討委員会には、椛島義夫さん((有)夢弦館)、神村幸子さん(フリー)、川元利浩さん((株)ボンズ)、後藤隆幸さん((株)プロダクション・アイジー)、4名のアニメーターの方々に委員としてご参加をいただくことができました。既に2回の委員会が開催されており、先週開かれた第2回委員会には、オブザーバーとして大塚康生さんにもおいでいただきました。


プロジェクトの人材育成に関する基本方針は、OJT(On the Job Training)=実際の作品制作の過程における計画的指導を主としつつ、OFF-JT(OFF the Job Training)=作品制作を離れた講義等の2つを、必要に応じて併用することとされています。

やや脱線しますが、プロジェクトが作画予算について用途制限を設けているのは、このOJTが理由です。プロジェクトに参加する若手(原画)アニメーターの皆さんは、作画期間中、プロジェクト以外の作品を担当することができません(専念義務)。その上、リテイク等についても、作画監督等による描き直しは基本的に認められておらず、若手(原画)アニメーターが2度3度と描きなおすことが求められます。このような方法では、当然、作業効率は著しく悪化すると予想されます。そこで、若手(原画)アニメーターの方々が、作画期間中、生活の心配をしないで作品制作と勉強に専念していただくため、いわゆる相場よりも高い単価が設定されました。


第2回委員会の主な議題は、OJT手法の検討、OFF-JT(全体講義および個別講義)の構成等でした。最初の全体講義が8月下旬に予定されているOFF-JTに関する解説は次回以降にさせていただくとして、この記事では、プロジェクトで採用されることとなったOJT手法のあらましについて、ご紹介します。

アニメーションの技法について、私自身は本来語るべき知識も技能も有していませんが、ウォルト・ディズニーのフルアニメーションが、いわゆる現代における2Dアニメーションの源流の1つであることについては、おそらく概ね異論のないところだろうと思います。

一方、アニメーターに必要な技能とは何かという根源的な問いかけについて、よく言われるのが”演技"です。アニメーション監督の片渕さんは、インタビュー記事の中で「アニメーターとは紙に絵を描いて演技をする俳優だ」「”演技”ができるアニメーターは必ず評価される。監督やプロデューサーにも見る目はあるので、その評価は収入につながるし、よそからも声がかかるようになる」と述べられています(週刊東洋経済、2010年7月24日号、84頁)。

プロジェクトにおける”若手(原画)アニメーター”については、新人ではなく、原則として動画アニメーターまたは原画アニメーターとして一定期間以上稼働した経験を有する方々とされています。こういった若手アニメーターの方々に対する各委員の評価として、止め絵やイラストは上手いというのがほぼ共通の見解でした。

そこで、”演技”力の向上の基礎となる”動かすことを考えながら描いていく”訓練として、大塚さんのまとめられた「アニメーターのための16のポイント」を読んでいただいた上、作画期間中、毎週サムネイル課題に取り組んでいただくこととなりました。

「アニメーターのための16のポイント」は、大塚さんらが1982年夏、ロサンゼルスで受けたレクチャーのポイントをまとめられたものです。講師はフランク・トーマスオリー・ジョンストン、いわゆるディズニーの”ナイン・オールドメン”のお二人です。受講者は、高畑勲さん、宮崎駿さん、大塚康生さん、友永和秀さん、富沢信雄さん、丹内司さん、丸山晃一さん、田中敦子さん、近藤喜文さん、篠原征子さん、山本二三さん、竹内孝次さんの計12名。何れも錚々たる顔ぶれですね(以上、大塚康生著『作画汗まみれ』増補改訂版・徳間書店、205頁より)。

サムネイルとは、「アニメーターのための16のポイント」の12番目に挙げられています。具体的には、動画用紙1枚に20から30程度の小さな絵を、簡単に手早く(30分~1時間程度)、ラフでよいので描きます。その中で、ある場面における一連の動作、例えば、「おばあさんがよっこらしょと立ち上がる」という一場面をできるだけ細かく、動きを分析して描きます。”紙の上で演技をする想像力”を養うのが目的です。

サムネイルは、今回のプロジェクトが取り組むOJT手法の一例に過ぎません。アニメーター育成検討委員会では、各受託制作会社で作品制作に取り組む監督、作画監督、作画監督補や中堅原画の皆さんにお願いする人材育成手法について、取りまとめ作業が急ピッチで行われています。


次世代を担う優れたアニメーターを育成する、と言葉でいうのは簡単です。しかし、そんな方法があればもうやっている、それが分からないから苦労しているんだといった辺りが、現場の皆さんの肌感覚でしょう。このプロジェクトでは、過去数十年に渡って、先達の多大なご苦労の上に集積された様々な情報や手法を基に、もっとも確実と思われる方法論を適用し、その過程や結果に関する情報をきちんと集め、それをまた分析していくことを毎年重ねていくことによって、現実に選びうる最も優れた方法論を見つけ出していきたいと考えています。

上記のうち、アニメーター育成の過程に関する情報収集を担うのが、ヒアリングチームです。ヒアリングチームの役割等については、また記事を改めてご紹介させていただきます。