2010年7月31日土曜日

企画紹介:「たんすわらし。」(仮) / Production I.G

お待たせしました。ご案内しておりましたプロジェクト参加各社の企画紹介をお届けします。第1弾は、株式会社プロダクション・アイジーさん、「たんすわらし。」(黄瀬和哉監督、仮題)をご紹介します。なお、ご紹介する情報は全て現時点の内容であり、今後予告なく変更されることがあることを予めお断りいたします。

------------

あらすじ

いまにもカンカンカンという音が響いてきそうな感じの鉄骨階段剥き出しの2階建て木造アパートで1人暮らしをしているOLに、ある日、実家の母から問答無用でおばあちゃんの箪笥なるものが送られてきた。

次の日に会社から帰ると見知らぬ子供がアパートの部屋にいるではないか。いかにも食いしん坊ですと言わんばかりの風貌のその子供は私の煎餅を勝手に食べている。いくつか会話にならない会話をするものの箪笥の中に入って消えてしまった。そんな不可思議な出来事と遭遇するものの、疲れているから幻覚に違いないと割り切って寝る主人公。

翌朝良い匂いに釣られて目を覚ますと、またもや不可思議なことに作った覚えのない鮭定食がテーブルの上に乗っているではないか。しかもできたてほやほやだ。何の気なしに食べ終えて片付けようとすると、掃除した覚えのないキッチンのシンク周りがピカピカに磨き上げられている。これは夢か現実か。不可思議な世界に迷いこんでしまったのだろうか。そして、部屋には新たに見知らぬ子供が2人増えている。

次の日にはさらに見知らぬ子供が3人増えることと、何故このような羽目になることをこの時の主人公は知る由もなかったのだった。


キャラクター


作画チーム(作画監督補佐以上)

 監督/キャラクター設定 - 黄瀬 和哉
  (代表作 - TVシリーズ「お伽草子」、TVシリーズ・劇場「×××HOLIC」)

 キャラクター原案 - 平田 亮
  (代表作 - 劇場「ホッタラケの島」)

 作画監督 - 海谷 敏久
  (代表作 - ゲーム「テイルズ オブ ハーツ」、TVシリーズ「Angel Beats!」、TVシリーズ「IGPX」)

 作画監督補佐 - 片桐貴悠
  (代表作 - TVシリーズ「戦国BASARA」)
------------

8月を目前にして、各制作ラインともご参加いただく原画アニメーター以上の主要スタッフが固まりました。初回の作打ちの予定も入りつつあります。各制作ラインとも、限られた時間と条件の中、本当によく頑張って下さっており、プロジェクト改善のためのご提案もいただくなどしております。本当に有り難い限りです。

次回の企画紹介は、P.A.worksさんの予定です。ご期待下さい。

2010年7月30日金曜日

「育成検討委員会からの提言」のご紹介

前回の記事でご紹介した「育成検討委員会からの提言」の内容をご紹介します。

この提言は、アニメーター育成検討委員会が、各制作ラインにおいて実践いただきたいOJTの方針を19のポイントにまとめたものです。既に各社宛には、今回のプロジェクトにご参加いただく主要スタッフの皆様にお配りいただくよう、お願いしています。

OJTとは、現場における具体的仕事を通じた計画的指導です。具体的な計画や方針なしに、ただ「背中を見て覚えろ」というのとは異なります。各制作ラインで実際の指導を担われる監督、作画監督および作画監督補らの皆さんには、普段と異なるやり方でご負担をおかけすることになりますが、意欲的に取り組んでいただけるものと期待しております。

------------

文化庁・平成22年度若手アニメーター等人材育成事業
アニメーター育成検討委員会

若手原画育成On the Job Trainingの中でおこなってほしいこと


若手アニメーター育成に関して、演技指導は監督が、作画技術に関しては作画監督が指導すると思います。育成検討委員会での議論の結果、今回は各社の自主的な取り組みを尊重し、それぞれの育成目標達成に重きを置くことになりました。

したがいまして、育成検討委員会からおねがいすることは、若手原画向けのアニメーター育成効果を検証するためのサムネイル課題以外には、非常に基本的なワークフローに関することのみです。

育成プロジェクトのなかで以下の取り組みをおこなってください。

a) 制作は、若手原画に対し、「アニメーターのための16のポイント」(添付資料)とこのプリントを各1部ずつ配布してください。

b) 制作は、作打ちの前に、アニメーターが絵コンテを読み込む時間を作ってください。先に読んでおかないと、作打ちで的確な質問ができず、コンテ内容がよく理解できません。

c) 作打ちには、作画監督、作監補、中堅原画、若手原画、社内動画も参加してもらってください。

d) 監督から、作打ちは何のためにするのか、原画が理解するべきポイントはどこかを教えてください。打ち合わせでは、わからないことは質問し、聞いたことはメモを取るように指導してください。

e) 社内動画はもちろん、外注動画にも絵コンテを読ませてあげてください。現実的に考えて、返却する回覧用絵コンテでかまいません。作品内容もカットの意味もわからず動画するのは楽しくないでしょう。動画が単純作業になってしまいます。

f) 社内動画用に動画用絵コンテを1冊用意してあげてください。

g) ラッシュチェックは作画監督、作監補、中堅原画、若手原画、社内動画の全員を呼んでおこなってください。

h) 監督から、ラッシュチェックは何のためにするのか教えてください。各工程の担当者がおのおのの立場でチェックする意味を教えてください。

i) ラッシュリテイクは作画監督が直してしまうのではなく、できるだけ原画本人に返してください。ラッシュリテイクの意味を学ぶためです。

j) プロジェクトに参加するアニメーターには、次のとおり専念義務が課されています。特に、若手原画は、作画期間中の3ヶ月間、この作品以外の仕事に関わることはできません。できるだけ若手原画本人も3ヶ月間の目標をたて、それは美術書1冊の模写でもかまいませんが、余暇は自分の将来における財産を作るための勉強に費やしてください。
○作画室の開室時間中、プロジェクト以外の仕事をしてはならない方
作画監督、作画監督補、中堅原画
○作画期間中、プロジェクト以外の仕事をしてはならない方
若手原画

k) 監督リテイク、作画監督リテイク等は、黙って机の上に置いていくのではなく、本人を呼んで考え方を説明し、自分で描き直をしてもらってください。(最終的には描き直しになったとしても、考える習慣づけのために最初は自分で描いてもらってください)

l) 動画リテイクも社内、社外にかかわらず、可能な限り動画本人を呼び、教える形でリテイクしてください。ふだんできない勉強をしてもらうための単価設定です。

m) 社内動画は、この作品で担当した動画のすべてについて、動きと演技については原画に(定時から作画室にいます)チェックを受けてください。そのカットの動きを一番理解しているのは原画です。動画注意事項に関わる動画の品質維持については、通常どおり動画検査におねがいしてください。

n) 若手原画は、自分が担当した原画の社外動画も、動検前に自分で確認してください。動きや演技でまちがいがあればメモを入れて動検へ回すようにします。動画が割れない原画を描いていないか、動画がまちがいやすい指示をしていないか学ぶためです。

o) 若手原画は、必要な小物設定等を、まず自分で調べ、設定を描き、作画監督に見てもらってください。(最終的には作監が描き直したとしても)仕事をするとき、なんでも設定を待つのではなく、調べて学ぶ習慣をつけるためです。

p) 監督および作画監督は、カット分けではバラ出しをせず、まとまったシーンごとに割り振ってください。とくに若手にはできるだけ連続したカットのみを割り振り、シーンに責任を持ちシーンを自分で作って行く経験をさせてあげてください。

q) 監督および作画監督は、若手原画が30カット以上を担当できるカット割りをしてください。あるていどのカット数を担当しないと、必要な経験ができないからです。(※募集案内P14 (2)ア④ 若手原画12人で1人あたり32カット)

r) 監督、作画監督および制作は、若手原画の月収モデル(※P15 ウ)に配慮し、若手原画の月収が平均20万円ていど以上になるよう、カット分けしてください。若手原画には生活に困らない月収を確保する見込みと引き替えに専念義務が課されており、これがあるからこそ、描き直しをくり返す育成方法が可能になっているのです。事業主旨にあわせ、くれぐれも若手原画の平均収入維持にご協力ください。

s) 若手原画は毎週1回、1時間程度、サムネイルの課題に取り組んでください。制作は毎週回収し毎週末に原版を事務局へ提出してください。
以上

------------

いかがでしたでしょうか。少しでも、各制作ラインの稼働イメージを掴んでいただければ幸いです。実際にはこの「提言」を受け、更に各社なりの工夫を申し出てこられる例もありました。したがって、厳密にいえば制作スタイルはそれぞれ異なる部分も出てくることになると思われます。しかし、今回のプロジェクトにおける育成は、今回ご紹介した基本方針に則って行われます。

さて、理念や制度の説明が続いてしまいました。次回か、次々回あたりではいよいよ、各社の企画についてもご紹介していきたいと思います。どうぞお楽しみに。

2010年7月28日水曜日

ヒアリングチームについて

7月22日(木)の記事でご紹介したアニメーター育成検討委員会から、7月23日(金)、受託4社の各制作ラインに対して、「育成検討委員会からの提言」が提示されました。提言では、OJTで実践していただきたい方針が、全部で19のポイントにまとめられています。

教える側の監督、作画監督および作画監督補の方々、教わる側の若手(原画)アニメーターの方々の双方からざっくばらんに話を聞き、プロジェクトの進捗による変化を観察・記録すると共に、各社に提示された「育成検討委員会からの提言」がきちんと守られているかなどについて確認するのが、今回ご紹介するヒアリングチームです。

------------

ヒアリングチームは、深井利行さん((有)ブレインズ・ベース)、森田実さん(フリー)、谷津美弥子さん(フリー)および吉田仁さん(フリー、※初出時、お名前を1字誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。)の皆様にお願いをすることができました。委員の構成は、3名がアニメーター、1名が制作進行(深井さん)となっています。深井さんはアニメーターの教育がご専門で、ウォルト・ディズニー・アニメーション・ジャパン株式会社(解散)でも同様のご経験をお持ちです。

委員には担当制作ラインが定められており、作画インから原画アップまでの約3ヶ月強の間、それぞれの担当制作ラインを訪問するなどして、監督から若手(原画)アニメーターまでのメインスタッフと面談を重ね、育成の現状を観察・記録すると同時に、現場からの要望などを聞き取っていただきます。

ヒアリングチームでは現在、ヒアリングに用いるテンプレート(ひな形)の検討が進められています。テンプレートは、各制作ラインからのヒアリングとその評価を統一した物差しに合わせて行うことで、後の比較対象を容易にするための仕組みです。監督、作画監督、作画監督補、中堅原画および若手(原画)アニメーターのそれぞれについて、各場面毎にどのような事項を聞き取るか等が記載されることになっています。ちなみに、ヒアリングは原画を担当するアニメーターだけでなく、動画検査や動画を担当する方々についても実施される見通しです。

いかによく検討された素晴らしい方針であっても、これを実際に当てはめてみれば、必ず改善すべき点は見つかるはずです。現場で起こる問題をきちんと観察・記録し、それを基に最初の方針を見直し、改めるべきところは改めていくことにより、アニメーター育成の方法論がより実践的、効果的なものとなっていくことを期待できます。しかし、限られた制作スケジュールの中、作品制作に取り組む現場のアニメーターの方々に記録を取れ、書類を書けということはできません。これを補うのが、ヒアリングチームです。

ヒアリングチームは、長年、現場でアニメーター育成に関わってこられたベテランアニメーターと制作の方々で構成されています。プロジェクトでは、現場をよく理解した当事者でもあるヒアリングチーム委員が、同じ仲間として話を聞くことにより、うわべだけではない生の事実を拾い出して下さることを期待しています。

ヒアリングチーム委員は、8月中旬に予定されている各社作打ちへの参加を皮切りに、8月下旬に開催される全体講義の一環として行われるグループミーティングへの参加等々、単に各制作ラインの作画室を折に触れて訪問するだけでなく、プロジェクトの要所をメインスタッフの方々と共にすることで、良質なヒアリングの前提となる信頼関係・仲間意識の醸成に努めていただくこととしています。

ヒアリングの結果は、書面にまとめられた上、アニメーター育成検討委員会に提出され、その検討を経た上で、年度末に提出される報告書に記載されます。

このようなヒアリングチームの役割を果たしていただくためには、アニメーター育成検討委員会との連携が重要です。そこで、アニメーター育成検討委員会には、ヒアリングチームからもオブザーバーとしてご参加いただき、育成方針策定の過程を直接見聞きしていただくことにより、情報と意識の共有を図っています。

------------

プロジェクト事務局側で育成を担うのは、アニメーター育成検討委員会と今回ご紹介したヒアリングチームです。プロジェクトの柱はあくまで現場のOJT([On the Job Training]=実際の作品制作の過程における計画的指導)にありますが、プロジェクトでは、今回触れた全体講義などのOFF-JT([OFF the Job Training]=作品制作を離れた講義等)も併用しています。

全体講義の第1回までは既に1ヶ月を切っており、こちらについても準備作業が急ピッチで進められています。全体講義は、原則として4社のメインスタッフが全てご参加いただくものです。(株)ピーエーワークスさんからは、富山から14名の若手原画を含む皆さんがおいでいただけることになっています。

これらOFF-JTの構成とそのねらいについては、記事を改めてご紹介させていただきます。

2010年7月25日日曜日

制作ラインの運営方針

プロジェクトに参加いただく4社、4つの制作ラインの運営方針についてご案内します。

プロジェクトには、4つの制作会社((株)アセンション、(株)テレコム・アニメーションフィルム、(株)ピーエーワークスおよび(株)プロダクション・アイジー)にご参加いただいています。各社にお願いしている制作ラインの運営方針は、主として次のとおりです。

------------

1.社外に動画、仕上げ、撮影等の工程を外部委託(再々委託)する際には、事務局による事前の書面承認が必要
  
アニメ制作は、一般に社内で完結するものではなく、美術、撮影その他含め、社外の方々のご協力が必要です。一方、プロジェクトは公共事業という性質上からも、また制作の実態把握という調査研究の必要性からも、再々委託を自由に認めるというわけにはいきません。

そこで、各社が、社外にプロジェクトの業務の一部をお願いする場合には、事前にその旨をプロジェクト事務局にお届けいただき、その承認を得ていただかなければならない、という仕組みを採用しました。これは、同様の下請構造をもつ他業種では普通に用いられている仕組みです。

承認を要する対象には、美術や撮影といった外部の会社や団体だけでなく、社員ではないフリーランスのアニメーターなどの個人も含まれます。法的にみれば、作品毎の契約で働いたり、一定期間内をある特定のスタジオに「所属」して働くアニメーターも、その制作会社やスタジオとは別個の存在です。そこで、各社からご提出いただく「スタッフリスト」には、こうした方々のお名前や所属についてもご記入をお願いしています。

2.社内処理が必要な作画工程は原画まで

プロジェクトに参加の各社には、作画工程のうち、原画に関しては社内での処理をお願いしています。

プロジェクトでは、アニメの制作工程のうち、プリプロダクション(絵コンテ等)は、監督ご自身が主として制作いただくことをお願いしています。その後、作画工程(プロダクション)はおよそ、原画・動画・仕上げ、美術・背景、3DCGと3つに分かれます。

  これら3つのうち、美術・背景、3DCG、それに動画・仕上げについては、1番の手続と3番の国内処理を守っていただく限り、社外に再々委託をしても構いません。これは、我が国におけるアニメ制作の実情を考慮したものです。

これに対し、原画工程(作打ち後、レイアウトから原画まで)については、各社に設置される作画室という物理的な1室の中で、その全てが行われなければなりません。作画室とは、監督、作画監督、作画監督補、中堅原画アニメーター、そして若手(原画)アニメーターの全員が集まり、プロジェクト作品を制作するための場所です。「作画室」の場所、開室時間(例:朝10時から18時まで)、休日等については、予め各社から、プロジェクト事務局宛にお届けいただいています。

もちろん、これらのスタッフのうちには、この作品限りの契約で各ラインに参加される、フリーランスや他社所属のアニメーターも含まれます。その意味で、このルールは「参加アニメーターの全てが社員でなければならない」というほど厳しいものではありません。しかし、事業の趣旨から、「原画以上の作画チーム」については、各社で文字通り1箇所に集まり、チームとして育成と作品づくりに専念することが期待されています。

3.プロジェクトに関する業務処理は、全て日本国内で完結すること

プロジェクトの各工程は、全て日本国内で処理されなければならず、国外に下請けに出すことはできません。

一般に、商業アニメの動画や仕上げ工程に関しては、その8割以上が日本国外で処理されているといわれています。今回のプロジェクトでは、貴重な税金を使わせていただいており、国内で動画を担当されているアニメーターの方々の育成をも実現するため、海外への下請が禁じられました。1番に記載した「再々委託の原則禁止」は、国内処理を確認するための取り組みでもあります。

4.主なスタッフのプロジェクトに対する「専念義務」

各制作ラインの主なスタッフ、すなわち作画監督、作画監督補、中堅原画アニメーター、そして若手(原画)アニメーターについては、それぞれ程度の差がありますが、約3ヶ月間におよぶ作画期間中、プロジェクトに対する「専念義務」を負っていただきます。

もっとも厳しい義務を負うのは、若手(原画)アニメーターです。以前の記事でもご紹介したとおり、若手アニメーターは作画期間中、プロジェクト以外の仕事をすることはできません。作画室開室時間中は、原則として作画室にいなければならず、それ以外の時間や休日に他の仕事を掛け持ちすることも禁じられています。これは、通常よりも単価がよく、ある程度の収入は保証される代わり、期間中は作品鑑賞、デッサンやアニメーション技法の勉強等、普段はなかなか取り組めない自己研鑽に取り組んで欲しいという趣旨です。

これに対し、作画監督、作画監督補、中堅原画アニメーターについては、作業室の開室時間中に限り、作業室の在室とこのプロジェクトに関する業務のみを行うことをお願いしています。なお、監督についてはこの限りではありませんが、例えばピーエーワークスの吉原監督は、作画期間中は基本的に富山のスタジオに詰めておられるご予定と伺っています。

5.制作予算の配分と作画予算の固定

各社に提供される制作予算は、原則として各社にご提出いただいた予算表に記載の用途以外に流用することはできません。とりわけ、プロジェクト計画書15頁イで「作画料固定部分」としている作画予算については、プロジェクト事務局の事前の承認なしに一切の変更をすることはできません。

また、原画の平均単価2万円、動画の平均単価600円といった金額は、すべて参加するアニメーターや演出の方々の手取り額です。受託制作会社はもちろん、動画が社外に再々委託に出された場合であっても、作画料固定部分に書かれた金額から、管理料などの名目で別途手数料を差し引くことはできません。

6.ヒアリングの実施と各種調査

作画期間中、各制作ラインには、ヒアリングチームからそれぞれ担当の1名が随時、ヒアリングにお邪魔します。作画室の場所、開室時間と休日をあらかじめ届けていただくのは、このためでもあります。ヒアリングチームには、各制作ラインに参加の若手アニメーターの方々にとって、気軽な悩み相談などもできるよう、なるべく頻繁に特に事前の予約などもなく、作画室に行って様子を見たり、話を聞いたりしていただくよう、お願いしています。

そのほか、1番から5番までに記載したルールがきちんと守られたかどうかについては、年度末の事業終了時に作成される報告書に記載されます。そのため、プロジェクト事務局は、各社に対し、必要な資料や情報をご提出いただくよう、お願いできることとされています。

そのようなことはないと確信していますが、万一、重大なルール違反が見つかった場合には、公共事業という性質上、プロジェクト事務局としても、文化庁の要請に基づき、契約解除も含めた厳格な対応を検討していかなければならないこととなります。

------------

相当長文となってしまいましたが、これでもプロジェクトの「ルール」は全てではありません。制作会社の皆さんには、それぞれのルールに関する多数の書類の作成・提出をお願いしており、よくご対応いただいております。全く新しい事業なので、書類のひな形を作成するのも、そのひな形や方針に沿って書類を作成するのもなかなか大変です。しかし、きちんとした資料・データの蓄積がなければ、将来に繋がっていきません。プロジェクトに参加の皆様のご理解・ご協力を仰ぎつつ、今後も対応を継続してまいります。

2010年7月23日金曜日

若手アニメーター育成プロジェクトに関するご意見を承る会・開催予定のご案内

若手アニメーター育成プロジェクト(以下「本プロジェクト」といいます。)について、日頃よりご興味・ご関心をお寄せいただき、ありがとうございます。

本プロジェクトに関し、「受託制作会社内における制作が義務づけられていない動画および仕上げの各工程について、特定の企業または団体等がこれを不当に独占して不公正な経済的利益を受けるのではないか」といった事実と異なる風評が一部で流布される等、本プロジェクトの内容および趣旨について、未だ十分にご理解いただけていない状況があるようです。

本プロジェクトが真に効用を発揮するためには、本プロジェクトの趣旨および内容に関する適切にご理解いただき、その成果をアニメーション業界全体で活用していただく必要があります。そこで、プロジェクト事務局では、今秋以降、アニメーション事業者およびアニメーターを主としたアニメーション制作関係者の皆様を対象に、本プロジェクトに関するご意見を承る会を開催することとしました。

会では本プロジェクトに関するご説明のほか、来年度以降も本プロジェクトが継続するようであれば、その内容に関係者の皆様のご意見をなるべく反映し、より良いプロジェクトとしていくため、広くご意見を承りたいと考えております。具体的な日程等につきましては、固まり次第、改めて本ブログ等でご案内を差し上げます。どうぞよろしくお願いいたします。

2010年7月22日木曜日

アニメーター育成検討委員会について

このプロジェクトは、その正式名称が「若手”アニメーター”等人材育成事業」と冠しているとおり、アニメーターの人材育成を主たる目的としています。プロジェクトの根幹、アニメーター育成の具体的方針を定めるのが、アニメーター育成検討委員会です。

アニメーター育成検討委員会には、椛島義夫さん((有)夢弦館)、神村幸子さん(フリー)、川元利浩さん((株)ボンズ)、後藤隆幸さん((株)プロダクション・アイジー)、4名のアニメーターの方々に委員としてご参加をいただくことができました。既に2回の委員会が開催されており、先週開かれた第2回委員会には、オブザーバーとして大塚康生さんにもおいでいただきました。


プロジェクトの人材育成に関する基本方針は、OJT(On the Job Training)=実際の作品制作の過程における計画的指導を主としつつ、OFF-JT(OFF the Job Training)=作品制作を離れた講義等の2つを、必要に応じて併用することとされています。

やや脱線しますが、プロジェクトが作画予算について用途制限を設けているのは、このOJTが理由です。プロジェクトに参加する若手(原画)アニメーターの皆さんは、作画期間中、プロジェクト以外の作品を担当することができません(専念義務)。その上、リテイク等についても、作画監督等による描き直しは基本的に認められておらず、若手(原画)アニメーターが2度3度と描きなおすことが求められます。このような方法では、当然、作業効率は著しく悪化すると予想されます。そこで、若手(原画)アニメーターの方々が、作画期間中、生活の心配をしないで作品制作と勉強に専念していただくため、いわゆる相場よりも高い単価が設定されました。


第2回委員会の主な議題は、OJT手法の検討、OFF-JT(全体講義および個別講義)の構成等でした。最初の全体講義が8月下旬に予定されているOFF-JTに関する解説は次回以降にさせていただくとして、この記事では、プロジェクトで採用されることとなったOJT手法のあらましについて、ご紹介します。

アニメーションの技法について、私自身は本来語るべき知識も技能も有していませんが、ウォルト・ディズニーのフルアニメーションが、いわゆる現代における2Dアニメーションの源流の1つであることについては、おそらく概ね異論のないところだろうと思います。

一方、アニメーターに必要な技能とは何かという根源的な問いかけについて、よく言われるのが”演技"です。アニメーション監督の片渕さんは、インタビュー記事の中で「アニメーターとは紙に絵を描いて演技をする俳優だ」「”演技”ができるアニメーターは必ず評価される。監督やプロデューサーにも見る目はあるので、その評価は収入につながるし、よそからも声がかかるようになる」と述べられています(週刊東洋経済、2010年7月24日号、84頁)。

プロジェクトにおける”若手(原画)アニメーター”については、新人ではなく、原則として動画アニメーターまたは原画アニメーターとして一定期間以上稼働した経験を有する方々とされています。こういった若手アニメーターの方々に対する各委員の評価として、止め絵やイラストは上手いというのがほぼ共通の見解でした。

そこで、”演技”力の向上の基礎となる”動かすことを考えながら描いていく”訓練として、大塚さんのまとめられた「アニメーターのための16のポイント」を読んでいただいた上、作画期間中、毎週サムネイル課題に取り組んでいただくこととなりました。

「アニメーターのための16のポイント」は、大塚さんらが1982年夏、ロサンゼルスで受けたレクチャーのポイントをまとめられたものです。講師はフランク・トーマスオリー・ジョンストン、いわゆるディズニーの”ナイン・オールドメン”のお二人です。受講者は、高畑勲さん、宮崎駿さん、大塚康生さん、友永和秀さん、富沢信雄さん、丹内司さん、丸山晃一さん、田中敦子さん、近藤喜文さん、篠原征子さん、山本二三さん、竹内孝次さんの計12名。何れも錚々たる顔ぶれですね(以上、大塚康生著『作画汗まみれ』増補改訂版・徳間書店、205頁より)。

サムネイルとは、「アニメーターのための16のポイント」の12番目に挙げられています。具体的には、動画用紙1枚に20から30程度の小さな絵を、簡単に手早く(30分~1時間程度)、ラフでよいので描きます。その中で、ある場面における一連の動作、例えば、「おばあさんがよっこらしょと立ち上がる」という一場面をできるだけ細かく、動きを分析して描きます。”紙の上で演技をする想像力”を養うのが目的です。

サムネイルは、今回のプロジェクトが取り組むOJT手法の一例に過ぎません。アニメーター育成検討委員会では、各受託制作会社で作品制作に取り組む監督、作画監督、作画監督補や中堅原画の皆さんにお願いする人材育成手法について、取りまとめ作業が急ピッチで行われています。


次世代を担う優れたアニメーターを育成する、と言葉でいうのは簡単です。しかし、そんな方法があればもうやっている、それが分からないから苦労しているんだといった辺りが、現場の皆さんの肌感覚でしょう。このプロジェクトでは、過去数十年に渡って、先達の多大なご苦労の上に集積された様々な情報や手法を基に、もっとも確実と思われる方法論を適用し、その過程や結果に関する情報をきちんと集め、それをまた分析していくことを毎年重ねていくことによって、現実に選びうる最も優れた方法論を見つけ出していきたいと考えています。

上記のうち、アニメーター育成の過程に関する情報収集を担うのが、ヒアリングチームです。ヒアリングチームの役割等については、また記事を改めてご紹介させていただきます。

2010年7月15日木曜日

全体会議を開催しました

7月12日(月)、文化庁、受託制作会社4社とプロジェクト事務局が参加して、若手アニメーター育成プロジェクトに関する全体会議が開催されました。



会議では、各社から作品(企画)の概要、プロジェクト参加の理由、このプロジェクトを通じてアニメーターの育成に対し、どのような方針で取り組みたいと考えているか等について、それぞれ発表をいただきました。各社各様、それぞれのお立場と捉え方で、このプロジェクトを関係するスタッフ、自社、そしてひろくは業界のために活かそうとしている真摯な姿勢と議論を直接、伺うことができました。

こうして、業界で日々頑張っておられる皆様の生の声が文化庁の担当者の方々に直接伝わることも、このプロジェクトの意義の1つであるように感じました。また、日本でアニメーションを作ること、アニメ制作会社の今後、アニメーターを育てることやアニメーターのキャリアパス等々について、各社のプロデューサーの方々の率直な意見交換も聞き応えがありました。

各社の企画内容については、今月下旬ころから、このブログにてご紹介していく予定です。

-----------

8月後半の作画インに向けて、今これからがプリプロダクションの山場です。本プロジェクトにご参加いただく若手アニメーターの方々を含めたスタッフリストも、ほぼ固まりつつあるとのこと。現時点の見込みでは、三十数名の若手原画アニメーターの皆さんにご参加いただける見込みです。

次回は、これら若手原画アニメーターの皆さんについて、「限られた時間と条件の中で、育成効果を最大化するにはどうすればよいか」、ご検討を頂いているアニメーター育成検討委員会の活動状況について、ご紹介したいと思います。