2010年12月18日土曜日

劇場用ポスターのデザイン

今年も残り少なくなりました。先日ご紹介したお披露目上映会まで、もう3ヶ月ありません。

上映をする場合、普通ならそれなりに広告を出したりメディアミックス的にコミックスを出したり、今であればそれなりの方法があります。しかし、今回のお披露目上映はこの秋、ティ・ジョイさんからのお申し出により、実現することになったもの。いわゆる公共事業であるこのプロジェクトでは、プロジェクトが始まった時点で、既に基本的に大方の予算配分が決まっています。

というわけで、お披露目上映会のプロモーションは基本的に「お金をかけない(かけられない)」方法によることとなりました。具体的には、

  1. 劇場にポスターを貼っていただく
  2. 公開の暫く前から、上映館で予告編を流していただく
  3. 公開の暫く前から、上映館でリーフレットを配布していただく(5,000枚×8館程度)
  4. 公開の暫く前から、ニコニコ動画やYoutubeで予告編を公開する
  5. 主要アニメ誌にニュースとして取り上げていただく
  6. 主要媒体(新聞・テレビなど)にニュースとして報道いただく

といった方法を考え、実行に移しています(他にも良いアイディアがあれば、TwitterでDaisukeP宛、ご提案下さい!)。

今回は、1番、劇場用ポスターの絵柄についてご紹介します。ご紹介している画像は、デザイナーの草野剛さんから最初にご提案いただいたものです。なお、画像中の絵柄やコピー等はおよそのイメージを掴むための仮のものです。



絵コンテやキャラ設定等の素材をお渡ししてから、1週間後にはこれだけのバリエーションをご提案いただきました。プロジェクトでは、これらのデザイン案を叩き台にして、各作品のプロデューサーさん、監督さんなどと打合せを行いました。現在、この中の1つをベースに、絵柄のクリンナップ作業やデザインの追い込みなどが行われています。

しかし、プロのデザイナーさんというのは凄いものです。お仕事のスピードもさることながら、打合せの際、関係者の方のコメントや要望に応え、あれやこれやと柔軟な提案がその場で出てくることにも唸らされました。多くの引き出しがあって、それをクライアントの要望に応じながらスムーズに開け閉めできるのがプロのデザイナーさんなのでしょう。そして、そういったコミュニケーションを通じて、それまで誰も至っていなかった、何かより良いものを見いだす喜び。それが、打合せの意味なのだろうと感じました。

2010年12月15日水曜日

お披露目上映会のプレスリリースを公開しました

先の投稿でご紹介したお披露目上映会について、本日、ティ・ジョイさんと共同でプレスリリースを公開いたしました。

http://www.janica.jp/press/press101215.pdf

お披露目上映会やキャストを含めた作品紹介については、1月発売の主要アニメ誌でもご紹介いただける見通しです。

今日は、アセンションさんの「キズナ一撃」で動画をご担当いただくWish、じゃんぐるじむ、4℃さんにお邪魔してきました。多くの動画アニメーターの皆さんとお会いして、改めてアニメは集団作業の賜物であることを実感しました。

2010年12月1日水曜日

作品の上映館が決まりました

11月5日の記事でご紹介した作品の上映、この度、上映館が決まりました。

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一般お披露目上映会

上映作品

キズナ一撃
キズナを倒せば一億円。世界格闘技チャンピオンを倒した轟キズナに
賞金がかけられた。だけど、キズナは13歳の女子中学生。学校にも
行かなきゃならないし、やってくる挑戦者にも勝ち続けなければいけない。
前代未聞!本格格闘ファミリーギャグ。
制作:アセンション(『カラフル』)/監督:本郷みつる。

おぢいさんのランプ
文明開化の明治時代、村にランプを広めて夜を明るくしようと決意
した13歳の少年。だが、村人たちは新しいものをなかなか受け入れ
ようとはしなかった。
「ごんぎつね」で知られる新美南吉の童話をアニメ化。
制作:テレコム・アニメーションフィルム(『ルパン三世 カリオストロの城』
『もやしもん』)/監督:滝口禎一

万能野菜 ニンニンマン
まりちゃんが大嫌いな食べ物を食べると、ニンニンマンが現れた!
ニンジン、ピーマン、牛乳が《お化け》に変身。へんてこな魔法を
使って、まりちゃんのトラブルを解決しようと活躍する。
家族で楽しめる、笑いと涙のハートフルな魔法アニメ。
制作:P.A.WORKS(『true tears』『Angel Beats!』)/監督:吉原正行

たんすわらし。
アパート住まいのOL・のえるの元に、親から送られてきた和だんす。
その中から次々と子どもたちが現れて、大騒動が巻き起こる。
彼らは「たんすわらし」だった……。シンプルなキャラクターで描く
不思議な笑いのドタバタ日常ドラマ。
制作:Production I.G(『イノセンス』『東のエデン』)/監督:黄瀬和哉

以上、4作品のオムニバス上映、各23分30秒~24分30秒程度、上映時間約100分

上映館(予定):
新宿バルト9、横浜ブルク13、T・ジョイ大泉、広島バルト11、T・ジョイ京都、
T・ジョイ新潟、T・ジョイ博多、梅田ブルク7(以上、計8館)

上映期間:
平成23年3月5日(土)から同月11日(金)まで、1日2回(朝夕)

鑑賞料金(予定):
一般1000円、大学・高校・専門学校生800円、中学生以下500円
※ 本上映は興行ではなく、プロジェクトの広報活動の一環として行うものです。
収入はフォーマット変換や貸館代等、上映に伴う実費に充当いたします。

備考:
※1 上映館では、草野剛さんデザインによる劇場用ポスターを展示します。
※2 上映館では、草野剛さんとアニメ評論家・氷川竜介さんらによるリーフレット
(作品紹介とプロジェクトに関する情報を掲載、B5版・2つ折り・4頁)を配布
する予定です(数量限定)。
※3 上映館では、鑑賞いただいた皆さまにアンケートをお願いする予定です。
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プロジェクトの成果を是非、確かめに来ていただきたいと思います。多くの皆様にご来場
いただければ、来年、この事業が継続できる場合、当初から劇場公開を踏まえた計画を
組むことができるようになるかもしれません。

詳細については、今後、本ブログのほか、新聞やアニメ誌等のご協力をいただきながら、
都度、ご報告して参ります。プロジェクトへのご参加をお待ちしております。

全体講義 第3回のご紹介

11月18日(木)・19日(金)の2日間にわたり行われた、第3回全体講義の概要をお伝えします。


各2日ずつで全3回を予定していた全体講義も今回で全日程が終了、最終回となる今回は、育成検討委員の
川元利浩さんによるパース講座と、プロジェクトに参加した若手アニメーターの皆さんが参加しての討論会を
中心にカリキュラムが組まれました。

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11月18日(木)
 12:30~13:30 全体講義アンケートへの回答
            報告者:神村幸子(育成検討委員会)
 13:40~16:50 講義『パース講座』
           講師:川元利浩(ボンズ・育成検討委員)
 17:05~ 若手アニメーターヒアリング(P.A.works)

11月19日(金)
 10:00~12:00 サムネイルを見る
           進行:神村幸子(PM、育成検討委員)
 13:10~16:10 討論『アニメーター職種の未来について』
           進行:後藤隆幸(I.G、育成検討委員)
 16:20~17:20 アンケート記入
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初日の1コマ目「全体講義アンケートへの回答」は、プロジェクト開始当初、プロジェクトに参加される若手アニメーターの皆さんにお願いしたアンケートに対する育成検討委員会からのコメントをお話しいただきました。全体講義のカリキュラムは、育成検討委員会(IG・後藤さん、ボンズ・川元さん、夢幻館・椛島さん、神村幸子さん)で検討し、お決めいただいたものです。カリキュラムの決定に際し、受講される若手アニメーターの皆さんのご要望も可能な限り、取り入れたいということでアンケートを行いました。この講義では、アンケートに書かれた質問、意見について、育成検討委員会が応えるという形で意見交換を図りました。


初日2コマ目はパース講座です。ボンズの中核で、育成検討委員もお願いしている川元さんにお願いすることができました。


2日目の1コマ目では、これまで12週間にわたって各週1つずつ、若手アニメーターの皆さんからご提出いただいたサムネイル課題を机上に揃え、若手アニメーターの皆さんで回覧していただきました。今回、サムネイル課題の提出をお願いしている若手アニメーターは4社で計32名。それぞれ12課題をお願いしていますので、カット数は合わせて384となります。


育成検討委員にはこの全カットについて、初日の講義が終わった後、18時から22時過ぎまで4時間以上をかけてチェックいただき、「よい」と思うカットにそれぞれシールを貼っていただきました。委員は4人ですので、全員が「よい」と思ったカットには4つのシール、1人だけなら1つのシールといった具合です。


384カット全てを並べるのは難しいということもあって、講義では上位の約半数を並べ、これらのサムネイルを書いた若手アニメーターの皆さんに見ていただきました。サムネイルには所属社名と個人名も記載されています。若手アニメーターの方々からは、「自分のサムネイルに4つの星が付いているのを見て、とても嬉しかった」「他の若手が、自分とは異なる解釈で描いたサムネイルを見るのがとても参考になった」などの声が上がっていました。


2日目の2コマ目は討論会。右手の写真にあるように、若手アニメーターの皆さんに車座になっていただき、育成検討委員の後藤さんによる司会で途中休憩を挟み、約3時間にわたって意見交換をしていただきました。若手アニメーター全員から感想と要望を寄せていただきつつ、それぞれに育成検討委員やプロマネから回答、または意見を寄せるなどし、最後はこれからを担う若きアニメーターとして、先輩や国に何を望むかといったことについても意見をいただきました。


最後のアンケートは、ある意味この事業の総括り。プロジェクトの主役である若手アニメーターの皆さんから、相当詳細な声をいただくため、A4版9ページに及ぶ調査表にご記入いただきました。頂戴した調査表を見ると、今後の取り組みを行う際に活かしていこう、と思うだけの丁寧で前向きな意見を多く寄せていただいておりました。


全体講義を終えたことにより、OJTとOff-JTというプロジェクトのコア部分はある意味、無事終了したということができます。しかし、作品づくりはこれからが最後の追い込みです。幸いにして、多くの皆様のご厚意を得て、作品を多くの方に観ていただく機会を確保することができました。作品が多くの方の目に触れ、評価を経ることにより、プロジェクトに参加いただいたアニメーターを含めたスタッフの皆さんの意識とモチベーションが高まっていくものと思います。その意味では、作品が無事完成し、上映・放送が実行されるまで、プロジェクトは終わりません。プロジェクト事務局一同も、それまで関係者の皆様と一緒により良い運営を心がけていきたいと考えています。


2010年11月23日火曜日

全体講義 第2回のご紹介

10月7日(木)・8日(金)の2日間にわたり行われた、第2回全体講義の概要をお伝えします。


全体講義の第2回目は、作画工程真っ盛りの10月初旬、7日(木)・8日(金)の両日に渡って行われました。カリキュラムは次のとおりです。

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10月7日(木)
 13:00~14:30 講義『産業構造、職業倫理、コスト意識、スケジュール管理等について』
           講 師:堀川憲司(P.A.works代表取締役)
 14:40~15:10 報告『第1回グループミーティングのまとめ』
           報告者:深井利行(ヒアリング委員)
 15:10~15:30 グループミーティング/説明
 15:30~17:20 グループミーティング(途中休憩1回)
           『制作工程の問題と分析、対策』
 17:30~19:00 若手アニメーターヒアリング(4社全て)

10月8日(金)
 10:00~11:00 講義『アフレコの概論、基礎知識、声優が困る作画等』
           講 師:佐藤正治(声優、青二プロダクション)
 11:10~12:30 講義『演技指導・概論から』
           講 師:佐藤正治(同上)
 13:30~15:10 講義『演技指導』
           講 師:佐藤正治(同上)
 15:20~17:00 講義『演技指導』
           講 師:佐藤正治(同上)
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初日のテーマは、アニメーターとしての立場を離れたプロデューサーの視点から、商業アニメーターにとっての「仕事」である”アニメーション制作”を学び、長く働くことのできるアニメーターとはどのようなアニメーターかを考えよう、というものでした。講師をお願いしたP.A.worksの堀川社長からは、「スタジオ経営者が20代、30代、そして40代のアニメーターに求めること」など、日頃は耳にすることのない率直なコメントを伺うことができました。

2日目は打って変わって、”演技”です。良いアニメーターは良き演技者であるともいわれます。しかし考えてみれば、俳優や声優といった演技そのものを探求する職業があるように、演技とはそれ自体が精妙で奥深いものです。アニメーターは普段からモノの動きやヒとの仕草といった万物に対する観察を怠らないといいます。しかし、仕事以外でも演劇などをされることの多い声優さんと異なり、演劇をすることを趣味にしているアニメーター、という話はほとんど聞きません。

そこで、今回はベテラン声優である佐藤正治さん(青二プロ所属)に講師をお願いし、簡単な演技指導の後、若手アニメーター全員が実際に小グループに分かれて演技をしてみる、という講義を行いました。なお、事業を始めるに当たって若手アニメーターの皆さんに出していただいたアンケートでも、演技指導は希望する項目の上位に挙げられていました。

台本を手に、舞台で身振り手振りを交えつつ、最初は慣れない演技に戸惑っていた若手アニメーターの皆さんですが、とても良い刺激になった様です。受講を終えた皆さんからは、「明日からの仕事に役立つ」「非常に勉強になった」など、とても好評を博していました。

全体講義も、最終となる第3回が先週、11月17日(木)・18日(金)の両日に無事、終了しました。また記事を改めてご報告します。

2010年11月5日金曜日

作品の公開について(上映)

前回記事でご案内した読売新聞、10月22日(金)夕刊に無事掲載されました。とはいえ、記事の掲載は各地方のご判断もあるということで、関東では各社キービジュアルを含めた大きな取り扱いをいただいたものの、私の住んでいる大阪版には掲載がなかった模様です...

さて、記事でもご紹介をいただきましたが、若手アニメーター育成プロジェクトで製作中の4作品、来春3月、劇場でお披露目上映会を行うことができる運びとなりました。この上映会は、新宿バルト9など、日本全国でシネマコンプレックスを運営される株式会社ティ・ジョイ様のご厚意により、実現できることとなったものです。上映館は、全国10館程度を軸に調整中です。上映は約1週間程度を予定しております。詳細は、確定次第改めてご案内させていただきます。

上映に際して必要な劇場ポスター、チラシ等については、デザイナーとして草野剛さんにご参加いただけることとなりました。草野さんは、劇場版機動戦士ガンダム00、スタードライバー、鉄コン筋クリート、劇場版イヴの時間など、多くのアニメ作品にも関わっておられる気鋭のデザイナーさんです。

関係者以外の方々への上映は、プロマネの私自身、今年5月のプロジェクト発足当初には考えてもおりませんでした。作品を制作する以上、作品をご覧いただく機会を確保したいとは考えていました。しかし、プロジェクト計画書をお読みの方は先刻ご承知のとおり、当初想定していたのはNHKさんによる放映のみでした(残念ながら、NHKさんによる放映は先方のご事情により、今年度は実現されないこととなりました。)。

今回の上映は、ティ・ジョイさんからのご提案により、実現することとなったものです。ティ・ジョイさんとの最初の接点は、関係試写会会場である新宿バルト9の貸館交渉でした。その際、若手アニメーター育成プロジェクトの概要についてもご案内を差し上げたところ、先方から「非常に意義ある取り組みだと思うので、是非ご協力したい」とのご提案をいただきました。

ティ・ジョイさんの上映館は全てデジタルシネマですので、上映に際していわゆるフィルムのプリント費用は生じません。しかし、プロジェクト作品はテレビ放映を想定していたため、納品素材は劇場用の素材、すなわちDCP(デジタル・シネマ・パッケージ)と異なります。したがって、上映のためにはフォーマットの変換が必要です。これは一例ですが、上映会の実現には、DCP変換、頒布用チラシや劇場ポスターの制作費用等、当初想定していなかった種々の手当が必要です。

しかし、貴重な公金を費やして制作され、かつ、多くのスタッフの皆さんの努力の結晶である作品を、広く皆さんにお披露目し、更には作品に対する評価という形で作品をご覧いただいた皆さんにもプロジェクトにご参加いただけることを思えば、多少の手間暇や費用など、全く問題になりません。幸い、文化庁としてもこの新たな取組みは好ましいことであると応援いただくことができました。

作品が無事完成するか、実際に多くの皆さんに劇場まで足を運んでいただけるのか等々、不安は多々あります。しかし、ティ・ジョイさん、文化庁さん、草野さん、読売新聞さんその他のメディア、それにプロジェクト参加4社等々、多くの皆さんがこの件にもご協力下さっています。私たちプロジェクト事務局も、今できることに全力で取り組んで参ります。

2010年10月21日木曜日

読売新聞夕刊(10月22日(金))に記事が掲載されます

10月も間もなく最終週、各社の制作も佳境を迎えつつあります。進捗の早い社では、担当カットが全て終わった中堅原画さんも出始めました。音響打合せやキャスティング等も進みつつあります。

さて、明日、平成22年10月22日(金)の読売新聞・夕刊で報道いただける運びとなりました。10月15日(金)、富山のPAを除く3社をご取材いただいた内容が掲載されるかと思います。また、プロジェクトで制作される作品の公開についても案内があるかと思います。

ものが新聞なだけに、ぎりぎりまで実際に掲載されるか不安な部分もありますが、私も一読者として楽しみにしています。

2010年10月13日水曜日

各社ラインの進捗状況(9月末現在)

10月に入り、早い社では既に動画が上がりはじめています。この機会に、プロジェクトの側で求めている以上の取組みをされている社もあります。各社の進捗状況についてご紹介します。

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『おぢいさんのランプ』/テレコム・アニメーションフィルム

8月23日(月)の作打ち以降、アニメーターの大塚康生さんによるご講義やアニメーション制作ソフトウェアであるToonBoomに関する講義など、独自の社内講義を企画・実施しつつ、順調に制作を進めておられます。スタジオには資料用の和装、わらじはもちろん、ランプの現物があったり、あれやこれやの歴史資料が積まれています。スタッフの皆さんのこだわりと熱意が伺えます。
先月末にご提出いただいた集計表によれば、レイアウトチェックを経た原画上がりは既に131カット(総カット数約350カットの予定)、動画も3ケタ枚数に上っているとのことです。


『キズナ 一撃』/ascension

アニメーターの仕事である「アニメ」の根源的な部分の意識を明確にすることを目的として、本郷監督のセレクションによる過去の名作アニメ作品を定期的に鑑賞するなど、こちらも独自の工夫を懲らしつつ、制作を進めていただいております。

こちらは総カット数約310カットのうち、9月末までにレイアウトチェックを経たのが67カット、動画もテレコムと同じく3ケタが上がっているとのことです。


『たんすわらし。』/Production I.G

制作期間中の9月に国分寺から三鷹への社屋移転を経る等、プロジェクト外のご苦労もあって、4社の中で一番苦戦しておられます。10月12日現在、総カット数約270カット程度のうちレイアウトチェックを経たのは未だ40カットに留まっています。

しかしながら、黄瀬監督も大分イメージが固まり、調子がでてきたご様子。先週行われた音響打合せでは、早くも作品の主題歌のデモテープを聞くことができたのですが、その際にも作品のイメージをきちんと語っておられたのが印象的でした。比較的ゆったりした進行で余力を残したスタッフの皆さんの追い込みに期待したいと思います。


『万能野菜 ニンニンマン』/P.A.works

吉原監督だけでなく、普段は東京の担当制作さんまでもが期間中は富山本社に詰めておられることにも現れているとおり、非常に熱心に取り組んでいただいています。レギュレーションにはない個別講義についても、8月中には4回の社内講義を。また、日常的に3DL/Oシステムを利用した、L/O講義を実施される等、独自の工夫もしておいでです。

9月末現在、総カット数約345カットのうち、88カットがレイアウトバックされている状況とのことです。

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次回更新では、10月に行われた全体講義(第2回/全3回)の様子をご報告する予定です。

2010年9月23日木曜日

他事業紹介:『アニメ・スピードピッチin Tokyo 2010』/公益財団法人ユニジャパン

今回は、若手アニメーター育成プロジェクト以外で、日本のアニメ/アニメーター・演出のために行われている取組みをご紹介します。

『アニメ・スピードピッチin Tokyo 2010』は、「北米大手テレビアニメーション会社で企画開発を担当するプロデューサーに対して、日本のクリエイターが直接、自分の企画を提案・プレゼンする」という事業です。具体的には、監督または監督志望のアニメーターや演出などの個人クリエーターらから企画を募集し、そのうち60組について、東京都内に招いた北米の大手テレビアニメ会社の企画開発担当プロデューサーらに対して直接、自分の企画を売り込む機会をセッティングされるそうです。運営は公益財団法人ユニジャパンで、経済産業省との共同事業とされています。

※ ユニジャパンの募集案内
 http://www.unijapan.org/news/unijapan/speedpitch.html
※ この事業に関する報道
 http://animeanime.jp/news/archives/2010/09/post_1343.html

募集期間はタイトで、応募締切は来週末、平成22年9月30日(木)とされています。ただし、応募時には企画の提出は不要ということですので、企画の準備はもう少し時間がありそうです。プロデューサーへのプレゼン時間も、1社あたり約6分程度と限られていますので、この段階で企画資料の分量は要求されていないように思われます。もちろん、通訳はプロジェクト側で準備されるとのこと。

今年度から新たに始まった事業ということで、売り込んだ企画の秘密保持や企画が採用された場合の権利の取扱い等、詳細が明らかになっていない部分もあります。しかし、これらは本来的には、当事者間の交渉により解決されるべき事柄です。肝心なのは、個々のアニメ制作に携わるクリエーターが、自ら温めた企画を形にするチャンスが増えるということでしょう。この事業を通じて企画が採用された場合、監督の適正な権利がきちんと保持されるよう、形になった後のサポートも期待したいですね。

この事業を通じて、新しい才能が世に出ることを楽しみにしたいと思います。

2010年9月17日金曜日

「ご意見を承る会」のご案内

お待たせしました。予てお知らせしておりました「ご意見を承る会」について、以下の要領で開催できる運びとなりました。

これは、若手アニメーター育成プロジェクトに関するご意見・ご要望を頂戴し、今後のプロジェクト運営及び同種の取り組みに反映させていくための取り組みです。お預かりしたご意見は、文化庁をはじめ、関係諸機関にもお伝えして参ります。皆様ご多用とは存じますが、どうぞ奮ってご参加下さい。

1.アニメーション制作会社等、関係事業者様向け(事前登録制)
  日時:10月18日(月) 13:30~15:30(開場:13:15)
  場所:練馬産業会館
  ※最寄り駅:練馬駅徒歩8分(都営大江戸線・西武池袋線)

2.アニメーター・演出等、関係個人様向け(事前登録制)
  日時:11月25日(木) 13:30~15:30(開場:13:15)
  場所:練馬産業会館
  ※最寄り駅:練馬駅徒歩8分(都営大江戸線・西武池袋線)

3.備考
  参加を希望される方は、下記URLより事前のご登録をお願いします。開催日の1週間前ころを目処に確認のメールをお送りします。なお、希望者多数の場合は定員に達し次第、募集を締め切らせていただく場合がございます。悪しからずご了承下さい。
  個人情報保護のため申込みフォームにはSSLを使用しています。当団体のサーバの契約上ドメインが異なりますが、実体はJAniCA管理の同一サーバとなっておりますのでご安心ください。

  事業者様向け http://p.tl/e5aS

  個人様向け PC:http://p.tl/ri-K
          携帯:http://p.tl/tRKy

  お問い合わせ
   プロジェクト事務局 担当:大坪(ohtsubo@janica.jp)

2010年9月12日日曜日

全体講義 第1回のご紹介

8月20日(金)・21日(土)の2日間にわたり行われた、全体講義の概要をお伝えします。



今回の講義は、合計3回・各回2日ずつ行われる全体講義の1回目です。若手アニメーター育成プロジェクトはOJT、実際に作品制作を行う過程でのトレーニングを主としています。OJTとは別に、これを補足するため行われるのが全体講義です。あえて「全体」講義と呼んでいるのは、制作期間中、各社がそれぞれ工夫をされた個別講義を行っておられるため、これらと区別する趣旨です。

先ず、全体講義のカリキュラムをご紹介します。


8月20日(金)
 13:00~14:00 事業説明
 14:00~14:10 サムネイル課題の描き方
 14:30~16:30 講義『アニメーターの技術とは』井上俊之(アニメーター)
 16:45~17:45 講義『アニメーター用語の豆知識』

8月21日(土)
 10:00~11:30 講義『契約の基礎・社会知識等』
 13:00~13:30 説明『グループミーティングについて』
 13:30~15:10 グループミーティング
        [解 散]
 15:30~17:30 若手ヒアリング(P.A.worksのみ)

各チームの若手アニメーターは、これら全てについて出席していただくようお願いしました。P.A.worksさんは、富山からバスを仕立てていただくなどして、若手原画12名を含む総勢19名にご参加いただきました。

全体講義のような座学は、それを受講したからといって直ぐに技術が身についたりする類のものではありません。にも関わらず、わざわざ作業を止めてまでお越しいただいた狙いは、各チームの枠を超え、プロジェクトに参加している全ての若手アニメーターの皆さんに同期であるという意識を持っていただくと同時に、他にも3つのチームが同様の制作をされていることに直接触れてもらい、健全な競争意識を養っていただくことにあります。

とはいえ、普段慣れない座学、それも小難しい事業や法律の説明などが多かったので、実施する前は寝てしまう方が続出するのではないかと心配しました。しかし、これは杞憂でした。皆さん、非常に集中して講義を受けていただき、居眠りなどはほとんどありませんでした。

また、同期意識を養っていただくために実施したグループミーティングも好評でした。グループミーティングは、アニメーターとしての将来のキャリアをどのように考えるかなどについて、各チームのスタッフをシャッフルして、5人前後のグループに分けて行いました。とりわけ、普段、他社の若手に接する機会の少ないP.A.worksの若手アニメーターの皆さんからは、「自分たちだけの悩みかと思っていたことが、そうではないことが分かってほっとした」等といった声が聞かれました。

なお、初日に行われたアニメーター・井上俊之氏による講義は、事前に各社から頂戴した「プロジェクトに参加している以外のスタッフも聴講させたい」との声にお応えした結果、全部で120名程度という多くの方々の参加をいただきました。JAniCA会員である若手についても、応募のあった数名にご参加いただくことができました。

全体講義の残り2回は、10月と11月にそれぞれ行う予定です。

2010年9月1日水曜日

各社ラインの進捗状況(9月1日現在)

9月を迎え、プロジェクト参加各社の制作ラインもいよいよ動き始めました。厳しいスケジュールの中、本当に皆さん、よく頑張って下さっています。各社の進捗状況についてご紹介します。

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『おぢいさんのランプ』/テレコム・アニメーションフィルム

8月23日(月)に初回の作打ちが行われました。既に脚本、絵コンテ、キャラクター設定、美術設定もご提出をいただいています。キャラクターと美術は1冊の設定資料集という形で、そのまま出版できそうなくらい、綺麗にまとめていただきました。和装が主ということで、帯の位置や和服の装いなど、丁寧な作画注意事項が添えられるなどしています。

作打ちには育成プロマネの神村と担当ヒアリング委員の森田も同席をさせていただきました。私も先週末、既に一連の作打ちが終了し、作画作業が開始されたスタジオにお邪魔してきました。スタジオ奥の一角がプロジェクトチームの作業場に割り当てられており、滝口監督をはじめ、メンバーの方々がおられました。資料写真等を見ながらより詳細な設定を起こしている方、レイアウトを取っている方等々、皆さんがそれぞれの作業をしておられました。紙に書いたプロジェクトがこうして形を得つつあるのを見て、なんだかとても不思議な印象を受けました。

テレコムさんの若手原画はテレコムさんだけでなく、スタジオコメットさんからも3名のご参加をいただいております。担当制作さんは「いずれも意欲があり、社内の若手にも良い影響を与えてくれると思う」と話しておられました。


『キズナ 一撃』/ascension

8月23日(月)に初回の作打ちが行われました。まだ絵コンテの全ては上がっていませんが、できあがった前半パートから作画作業は始められていると聞いています。絵コンテも完成見込みと聞いており、進捗は順調です。作打ちには、同じく神村と担当ヒアリング委員の深井、それに事務局長の大坪が同席させていただきました。

大坪の報告によれば、本郷監督はプロジェクトの趣旨を踏まえ、とても意欲的で熱心な指示等をされたということでした。キズナは、選定評価委員会において、「アニメーターが描きたくなる企画」等として、その作品的魅力がとても高い評価を受けた作品です。絵コンテを拝読するのを楽しみにしています。

なお、アセンションさんの若手原画もテレコムさん同様、Wishさんから3名、ボンズさんから2名のご参加をいただいています。プロジェクトにご参加いただける数には、残念ながら限りがあります。その枠を越え、プロジェクトを広くご利用いただけるのは有り難いことです。


『たんすわらし。』/Production I.G

明日、9月2日(木)に初回の作打ちが行われる予定です。明日の作打ちには、私と担当ヒアリング委員の谷津が同席します。I.Gさんは、9月半ばに国分寺から三鷹への社屋移転も控えておられます。一時はこのまま、移転終了まで作画インがずれ込むのではとも危惧しましたが、幸い杞憂に終わりました。

私自身は絵コンテの善し悪しを見分ける目を持ちませんが、一読して非常に良い印象を受けました。平田さんの原案を黄瀬さんがデザインされた丸みのあるキャラクターも魅力的です。


『万能野菜 ニンニンマン』/P.A.works

8月26日(木)に初回の作打ちが行われました。こちらも既に脚本、絵コンテ、キャラクター設定をいただいています。現時点で本編絵コンテは345カット・140ページ。349カット・178ページのテレコムさんより量は少なめですが、全体を通じて密度が高く、生き生きしたキャラクターが魅力的です。

PAさんではプロジェクトを機に社内講義をされるなど、プロジェクトの求める内容を越え、プロジェクトをご活用いただいております。作画期間中は、普段東京におられる吉原監督も富山のスタジオに詰めておられるそうです。尺(作品の長さ)が少々心配ですが、これも完成が楽しみです。

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次回更新では、8月に行われた全体講義(第1回/全3回)の様子をご報告する予定です。

2010年8月10日火曜日

企画紹介:「おぢいさんのランプ」/テレコム・アニメーションフィルム

企画紹介の最後は、株式会社テレコム・アニメーションフィルムさん、「おぢいさんのランプ」(滝口禎一監督)です。なお、ご紹介する情報は全て現時点の内容であり、今後予告なく変更されることがあることを予めお断りいたします。

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あらすじ

原作は、新美南吉「おぢいさんのランプ」です。

まだ日本に電燈というものがない頃のはなし、ランプという照明器具がやっと村々に普及し始めたころのはなしです。

巳之助少年は、初めて行った町で、夜の闇を明るく照らすランプを見つけます。彼は、「そうだ!!このランプを村に広め、村の生活を明るく灯してやろう」そして、身を立てようと思い立ちます。頑迷な村人たちは、始めはランプを手にしようとはしませんでした。そこで巳之助は、そのランプを村で一軒だけの雑貨屋に預けることにしました。雑貨屋の店先に吊り下げられたランプは夜でも明るく店内を照らしたのです。

ひとつめのランプが売れると、巳之助はその金で次のランプを仕入れ、次のランプが売れると今度は二個仕入れ、と商売を拡げて行きました。ランプは飛ぶように売れ、村は巳之助が願ったように明るくなり、そして、巳之助は更に遠くの村々を回りランプを売りました。

ところがある日町に行くと、道の脇に木の柱を立てている男たちがいました。電気というものの通り道を作っているのだというのです。

古いものが新しいものに取って代わられる。それは時には職を失うことにもつながります。しかし、私たちはこの話しを単なる感傷・ノスタルジーで語るのではなく、そんな事態になっても、より良いものを求め生きる人間のエネルギーとして表わしたいと考えています。


キャラクター


作画チーム(作画監督補佐以上)

監督 - 滝口 禎一
(代表作 - 「”空の境界”第四章『伽藍の洞』」、TVシリーズ「無人惑星サヴァイヴ」ほか多数)

キャラクターデザイン/作画監督補佐 - 高須 美野子
(代表作 - 「二十面相の娘」、「リルぷりっ」)

作画監督 - 友永 和秀
(代表作 - 「姿三四郎」、「ルパン三世 風魔一族の陰謀」、「リトル・ニモ」、 「サイバーシックス」ほか多数)

※初出記事において、高須様のお名前をまちがって表記しておりました。おわびして訂正いたします。
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各社の企画紹介、いかがでしたでしょうか。今後も、各社の制作に支障を来さない範囲で、制作の進捗状況などをお伝えしていければと思っております。ご期待下さい。

2010年8月6日金曜日

企画紹介:「キズナ 一撃」 / ascension

プロジェクト参加各社の企画紹介、第3弾は株式会社アセンションさん、「キズナ 一撃」(本郷みつる監督)をご紹介します。なお、ご紹介する情報は全て現時点の内容であり、今後予告なく変更されることがあることを予めお断りいたします。

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作画チーム(作画監督補佐以上)

監督 - 本郷みつる
(代表作 - 映画監督作「映画クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王」、「映画クレヨンしんちゃん ブリブリ王国の秘宝」、「映画クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望」、「映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険」、「映画クレヨンしんちゃん 金矛の勇者」、劇場映画「サクラ大戦 活動写真」他多数、TVシリーズ監督作「REIDEEN」、「デルトラクエスト」、「IGPX」、「クレヨンしんちゃん」他)

作画監督/キャラクターデザイン - 末吉 裕一郎
(代表作 - 「カラフル」、「河童のクゥと夏休み」、「マインドゲーム」、劇場「クレヨンしんちゃん」シリーズ、TVシリーズ「クレヨンしんちゃん」等)

作画監督補佐 - 植村 淳
(代表作 - 「カラフル」、劇場「クレヨンしんちゃん」シリーズ、劇場「ドラえもん」シリーズ、劇場「パーマン」)
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育成方針としては、「格闘シーンをウソなく丁寧に」描き、「長廻しの日常シーン、食事シーンなど、通常のテレビシリーズでは敬遠するようなシーンも取り入れ」、難易度の高いカットにも挑戦したいというお話しがありました。

企画紹介も、最後にテレコムさんを残すのみとなりました。次回更新をどうぞお待ち下さい。

2010年8月5日木曜日

研究紹介1:アニメーション産業研究会「アニメーション産業研究会報告書」(平成14年6月)

プロジェクトの企画作成にあたっては、多くの研究を参考にさせていただきました。今回は趣向を変え、若手アニメーター育成プロジェクトの基礎となった研究論文をご紹介します。

アニメにおける人材育成に関する行政の取り組みは、これまで主としてプロデューサー育成とアニメーター・演出育成の2つの観点から進められてきました。今回は、先にプロデューサー育成をごく簡単に概括します。

アニメーションが「産業」として認知され、行政による調査研究の対象とされたのは、ごく最近のことです。この分野における先行研究としては、 「東京におけるアニメーション産業集積の構造と変容」(半澤誠司 、経済地理学年報 47(4) 56‐70、2001年)や「産業 アニメーション産業研究会報告書 - 製作プロダクションによる自立したビジネスの確立に向けて」(経済産業省商務情報政策局文化情報関連産業課[メディアコンテンツ課]、経済産業公報 (15085), 3-7, 2002年6月)等があります。なお、この年(2002年)の5月には、一般社団法人日本動画協会(当初は有限責任中間法人)が設立されています。

後者は、アニメ産業に関する国レベルの調査研究報告としては、最も早い時期に記されたものです。同報告書は、その冒頭で既に
アニメーションの製作過程の海外移転が進行しつつあり、現在の日本の産業界全体の問題である「産業の空洞化」がここでも顕著化しつつある。また、日本のアニメーションクリエーターは一般に厳しい労働環境に置かれており、将来の人材という基盤が失われつつあるのではないかとの指摘もなされている。」(3頁)
との問題意識を提示しており、日本におけるアニメーターの若手人材不足が、当時、既に問題となっていたことが分かります。

同報告書は、現状認識について
動画を中心とした製作過程を韓国、東南アジア等の海外に発注する大手製作プロダクションが増加しつつあり、国内に動画を描く者が減り、それが原画製作者にも影響し、従来のアニメーションクリエーター育成の過程が空洞化しつつある。」(4頁)
との見方を示した上で、この問題に対する対応の方向性として、
今後、将来のクリエーターを養成していくためには、アニメーションクリエーターを目指す層の拡大を図ることが必要である。このため、アニメーション業界全体として、人材の育成方策について検討する必要がある。
しかし、たとえアニメーション業界を目指す者がいても、現状ではプロダクションは自社で人材を養成するための資金的余裕がなく、また有能なクリエーターが存在しても低賃金や厳しい労働環境を忌避して他の業界に流出してしまう。この状況を打開するためには、プロダクションが自立したビジネスを主体的に行うことによって、適正な報酬を確保する本来あるべきビジネスモデルを確立することが不可欠である。プロダクションに十分な報酬が行くようになれば、自社内で人材の育成を行う余裕も生じ、またクリエーターの処遇も改善するものと考えられる。」(4頁)
との方針を打ち出しています。

若手アニメーター育成プロジェクトは、アニメーターの育成を主眼としていますが、このプロジェクトだけでこの問題が解決できるわけではありません。抜本的に日本国内におけるアニメーターを含めたアニメ制作に携わるクリエーターの人材育成を実現するにはどうしたらよいか、という命題については、私も今のところ、この基本方針しかないだろうと考えています。つまり、

  1. アニメーター、演出家や制作進行等を含めたアニメ制作に携わる制作者達に対し、対価を提供するプロダクションが適正な収益を確保できる環境を実現する。
  2. プロダクションは、確保した収益の中から制作者に対して適正な報酬を支払い、自社内で人材の育成を行うことによって、自社の制作力=競争力を高める。

というサイクルです。今回のプロジェクトは、監督・プロダクション主導で製作/制作された作品の著作権を委ねることにより、ささやかながらもこの基本方針の実現に向けた一助となることも狙っています。

報告書の翌年、経済産業省は「コンテンツプロデューサー育成カリキュラム」と題し、プロダクション主導の新たなビジネスモデルを実現する人材の育成を目指したプロデューサー育成の取り組みを始め、その方向性は今年度(平成22年度)も「米国フィルムスクールにおける留学支援制度の実施」等として、継続されています。必ずしも即効性を期待できる取り組みではないだけに、これらの成果の程はまだ分かりません。しかし、現状の根本的な打開には必要不可欠である以上、粘り強い取り組みを期待したいですね。

研究紹介の次回は、本プロジェクトが理論的基礎とさせていただいた独立行政法人 労働政策研究・研修機構の労働政策研究報告書 No.25「コンテンツ産業の雇用と人材育成」をベースに、アニメーター人材育成のこれまでと本プロジェクトの位置づけをご紹介します。

なお、このサイトには、今回ご紹介した論文を含め、アニメーションに関する様々なレポートや論文が紹介されています。興味のある方は、どうぞご参照ください。

2010年8月2日月曜日

企画紹介:「万能野菜 ニンニンマン」 / P.A.works

プロジェクト参加各社の企画紹介、第2弾は株式会社ピーエーワークスさん、「万能野菜 ニンニンマン」(吉原正行監督)をご紹介します。なお、ご紹介する情報は全て現時点の内容であり、今後予告なく変更されることがあることを予めお断りいたします。

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作画チーム(作画監督補佐以上)

 監督/キャラクターデザイン - 吉原 正行
  (代表作 - 「幽☆遊☆白書」、「攻殻機動隊GHOST IN THE SHELL」、「メダロット」、「人造人間キカイダー THE ANIMATION」、劇場版「攻殻機動隊S.A.C」、「攻殻機動隊 2nd GIG」、「攻殻機動隊 S.S.S」、「精霊の守り人」、「東のエデン」、「東のエデン」劇場版Ⅰ、「東のエデン」劇場版Ⅱ)

 作画監督 - 川面 恒介
  (代表作 - 劇場版「攻殻機動隊 S.A.C」、「攻殻機動隊 2nd GIG」、「スパイダーライダーズ」、「レイトン教授と不思議な町」、「レイトン教授と悪魔の箱」、「true tears」、「CANAAN」、「レイトン教授と最後の時間旅行」、「レイトン教授と永遠の歌姫」、「Angel Beats!」)

 作画監督補佐 - 倉川 英揚
  (代表作 - 「ゴルゴ13」・「装甲騎兵ボトムズ」・「こちら葛飾区亀有公園前派出所」)
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この企画は、吉原監督が長年、個人的に温めておられたものだと聞いております。ご応募いただいた書面には、「柔らかい動き、誇張表現等、作画の根本的な技術を習得するための作品が市場から求められる機会が減りました。今回は擬人化されたキャラクターをコミカルに、生き生きとした動きで表現することを目指します。」とありました。

また準備が整い次第、次の企画をご紹介してまいります。どうぞお楽しみに。

2010年7月31日土曜日

企画紹介:「たんすわらし。」(仮) / Production I.G

お待たせしました。ご案内しておりましたプロジェクト参加各社の企画紹介をお届けします。第1弾は、株式会社プロダクション・アイジーさん、「たんすわらし。」(黄瀬和哉監督、仮題)をご紹介します。なお、ご紹介する情報は全て現時点の内容であり、今後予告なく変更されることがあることを予めお断りいたします。

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あらすじ

いまにもカンカンカンという音が響いてきそうな感じの鉄骨階段剥き出しの2階建て木造アパートで1人暮らしをしているOLに、ある日、実家の母から問答無用でおばあちゃんの箪笥なるものが送られてきた。

次の日に会社から帰ると見知らぬ子供がアパートの部屋にいるではないか。いかにも食いしん坊ですと言わんばかりの風貌のその子供は私の煎餅を勝手に食べている。いくつか会話にならない会話をするものの箪笥の中に入って消えてしまった。そんな不可思議な出来事と遭遇するものの、疲れているから幻覚に違いないと割り切って寝る主人公。

翌朝良い匂いに釣られて目を覚ますと、またもや不可思議なことに作った覚えのない鮭定食がテーブルの上に乗っているではないか。しかもできたてほやほやだ。何の気なしに食べ終えて片付けようとすると、掃除した覚えのないキッチンのシンク周りがピカピカに磨き上げられている。これは夢か現実か。不可思議な世界に迷いこんでしまったのだろうか。そして、部屋には新たに見知らぬ子供が2人増えている。

次の日にはさらに見知らぬ子供が3人増えることと、何故このような羽目になることをこの時の主人公は知る由もなかったのだった。


キャラクター


作画チーム(作画監督補佐以上)

 監督/キャラクター設定 - 黄瀬 和哉
  (代表作 - TVシリーズ「お伽草子」、TVシリーズ・劇場「×××HOLIC」)

 キャラクター原案 - 平田 亮
  (代表作 - 劇場「ホッタラケの島」)

 作画監督 - 海谷 敏久
  (代表作 - ゲーム「テイルズ オブ ハーツ」、TVシリーズ「Angel Beats!」、TVシリーズ「IGPX」)

 作画監督補佐 - 片桐貴悠
  (代表作 - TVシリーズ「戦国BASARA」)
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8月を目前にして、各制作ラインともご参加いただく原画アニメーター以上の主要スタッフが固まりました。初回の作打ちの予定も入りつつあります。各制作ラインとも、限られた時間と条件の中、本当によく頑張って下さっており、プロジェクト改善のためのご提案もいただくなどしております。本当に有り難い限りです。

次回の企画紹介は、P.A.worksさんの予定です。ご期待下さい。

2010年7月30日金曜日

「育成検討委員会からの提言」のご紹介

前回の記事でご紹介した「育成検討委員会からの提言」の内容をご紹介します。

この提言は、アニメーター育成検討委員会が、各制作ラインにおいて実践いただきたいOJTの方針を19のポイントにまとめたものです。既に各社宛には、今回のプロジェクトにご参加いただく主要スタッフの皆様にお配りいただくよう、お願いしています。

OJTとは、現場における具体的仕事を通じた計画的指導です。具体的な計画や方針なしに、ただ「背中を見て覚えろ」というのとは異なります。各制作ラインで実際の指導を担われる監督、作画監督および作画監督補らの皆さんには、普段と異なるやり方でご負担をおかけすることになりますが、意欲的に取り組んでいただけるものと期待しております。

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文化庁・平成22年度若手アニメーター等人材育成事業
アニメーター育成検討委員会

若手原画育成On the Job Trainingの中でおこなってほしいこと


若手アニメーター育成に関して、演技指導は監督が、作画技術に関しては作画監督が指導すると思います。育成検討委員会での議論の結果、今回は各社の自主的な取り組みを尊重し、それぞれの育成目標達成に重きを置くことになりました。

したがいまして、育成検討委員会からおねがいすることは、若手原画向けのアニメーター育成効果を検証するためのサムネイル課題以外には、非常に基本的なワークフローに関することのみです。

育成プロジェクトのなかで以下の取り組みをおこなってください。

a) 制作は、若手原画に対し、「アニメーターのための16のポイント」(添付資料)とこのプリントを各1部ずつ配布してください。

b) 制作は、作打ちの前に、アニメーターが絵コンテを読み込む時間を作ってください。先に読んでおかないと、作打ちで的確な質問ができず、コンテ内容がよく理解できません。

c) 作打ちには、作画監督、作監補、中堅原画、若手原画、社内動画も参加してもらってください。

d) 監督から、作打ちは何のためにするのか、原画が理解するべきポイントはどこかを教えてください。打ち合わせでは、わからないことは質問し、聞いたことはメモを取るように指導してください。

e) 社内動画はもちろん、外注動画にも絵コンテを読ませてあげてください。現実的に考えて、返却する回覧用絵コンテでかまいません。作品内容もカットの意味もわからず動画するのは楽しくないでしょう。動画が単純作業になってしまいます。

f) 社内動画用に動画用絵コンテを1冊用意してあげてください。

g) ラッシュチェックは作画監督、作監補、中堅原画、若手原画、社内動画の全員を呼んでおこなってください。

h) 監督から、ラッシュチェックは何のためにするのか教えてください。各工程の担当者がおのおのの立場でチェックする意味を教えてください。

i) ラッシュリテイクは作画監督が直してしまうのではなく、できるだけ原画本人に返してください。ラッシュリテイクの意味を学ぶためです。

j) プロジェクトに参加するアニメーターには、次のとおり専念義務が課されています。特に、若手原画は、作画期間中の3ヶ月間、この作品以外の仕事に関わることはできません。できるだけ若手原画本人も3ヶ月間の目標をたて、それは美術書1冊の模写でもかまいませんが、余暇は自分の将来における財産を作るための勉強に費やしてください。
○作画室の開室時間中、プロジェクト以外の仕事をしてはならない方
作画監督、作画監督補、中堅原画
○作画期間中、プロジェクト以外の仕事をしてはならない方
若手原画

k) 監督リテイク、作画監督リテイク等は、黙って机の上に置いていくのではなく、本人を呼んで考え方を説明し、自分で描き直をしてもらってください。(最終的には描き直しになったとしても、考える習慣づけのために最初は自分で描いてもらってください)

l) 動画リテイクも社内、社外にかかわらず、可能な限り動画本人を呼び、教える形でリテイクしてください。ふだんできない勉強をしてもらうための単価設定です。

m) 社内動画は、この作品で担当した動画のすべてについて、動きと演技については原画に(定時から作画室にいます)チェックを受けてください。そのカットの動きを一番理解しているのは原画です。動画注意事項に関わる動画の品質維持については、通常どおり動画検査におねがいしてください。

n) 若手原画は、自分が担当した原画の社外動画も、動検前に自分で確認してください。動きや演技でまちがいがあればメモを入れて動検へ回すようにします。動画が割れない原画を描いていないか、動画がまちがいやすい指示をしていないか学ぶためです。

o) 若手原画は、必要な小物設定等を、まず自分で調べ、設定を描き、作画監督に見てもらってください。(最終的には作監が描き直したとしても)仕事をするとき、なんでも設定を待つのではなく、調べて学ぶ習慣をつけるためです。

p) 監督および作画監督は、カット分けではバラ出しをせず、まとまったシーンごとに割り振ってください。とくに若手にはできるだけ連続したカットのみを割り振り、シーンに責任を持ちシーンを自分で作って行く経験をさせてあげてください。

q) 監督および作画監督は、若手原画が30カット以上を担当できるカット割りをしてください。あるていどのカット数を担当しないと、必要な経験ができないからです。(※募集案内P14 (2)ア④ 若手原画12人で1人あたり32カット)

r) 監督、作画監督および制作は、若手原画の月収モデル(※P15 ウ)に配慮し、若手原画の月収が平均20万円ていど以上になるよう、カット分けしてください。若手原画には生活に困らない月収を確保する見込みと引き替えに専念義務が課されており、これがあるからこそ、描き直しをくり返す育成方法が可能になっているのです。事業主旨にあわせ、くれぐれも若手原画の平均収入維持にご協力ください。

s) 若手原画は毎週1回、1時間程度、サムネイルの課題に取り組んでください。制作は毎週回収し毎週末に原版を事務局へ提出してください。
以上

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いかがでしたでしょうか。少しでも、各制作ラインの稼働イメージを掴んでいただければ幸いです。実際にはこの「提言」を受け、更に各社なりの工夫を申し出てこられる例もありました。したがって、厳密にいえば制作スタイルはそれぞれ異なる部分も出てくることになると思われます。しかし、今回のプロジェクトにおける育成は、今回ご紹介した基本方針に則って行われます。

さて、理念や制度の説明が続いてしまいました。次回か、次々回あたりではいよいよ、各社の企画についてもご紹介していきたいと思います。どうぞお楽しみに。

2010年7月28日水曜日

ヒアリングチームについて

7月22日(木)の記事でご紹介したアニメーター育成検討委員会から、7月23日(金)、受託4社の各制作ラインに対して、「育成検討委員会からの提言」が提示されました。提言では、OJTで実践していただきたい方針が、全部で19のポイントにまとめられています。

教える側の監督、作画監督および作画監督補の方々、教わる側の若手(原画)アニメーターの方々の双方からざっくばらんに話を聞き、プロジェクトの進捗による変化を観察・記録すると共に、各社に提示された「育成検討委員会からの提言」がきちんと守られているかなどについて確認するのが、今回ご紹介するヒアリングチームです。

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ヒアリングチームは、深井利行さん((有)ブレインズ・ベース)、森田実さん(フリー)、谷津美弥子さん(フリー)および吉田仁さん(フリー、※初出時、お名前を1字誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。)の皆様にお願いをすることができました。委員の構成は、3名がアニメーター、1名が制作進行(深井さん)となっています。深井さんはアニメーターの教育がご専門で、ウォルト・ディズニー・アニメーション・ジャパン株式会社(解散)でも同様のご経験をお持ちです。

委員には担当制作ラインが定められており、作画インから原画アップまでの約3ヶ月強の間、それぞれの担当制作ラインを訪問するなどして、監督から若手(原画)アニメーターまでのメインスタッフと面談を重ね、育成の現状を観察・記録すると同時に、現場からの要望などを聞き取っていただきます。

ヒアリングチームでは現在、ヒアリングに用いるテンプレート(ひな形)の検討が進められています。テンプレートは、各制作ラインからのヒアリングとその評価を統一した物差しに合わせて行うことで、後の比較対象を容易にするための仕組みです。監督、作画監督、作画監督補、中堅原画および若手(原画)アニメーターのそれぞれについて、各場面毎にどのような事項を聞き取るか等が記載されることになっています。ちなみに、ヒアリングは原画を担当するアニメーターだけでなく、動画検査や動画を担当する方々についても実施される見通しです。

いかによく検討された素晴らしい方針であっても、これを実際に当てはめてみれば、必ず改善すべき点は見つかるはずです。現場で起こる問題をきちんと観察・記録し、それを基に最初の方針を見直し、改めるべきところは改めていくことにより、アニメーター育成の方法論がより実践的、効果的なものとなっていくことを期待できます。しかし、限られた制作スケジュールの中、作品制作に取り組む現場のアニメーターの方々に記録を取れ、書類を書けということはできません。これを補うのが、ヒアリングチームです。

ヒアリングチームは、長年、現場でアニメーター育成に関わってこられたベテランアニメーターと制作の方々で構成されています。プロジェクトでは、現場をよく理解した当事者でもあるヒアリングチーム委員が、同じ仲間として話を聞くことにより、うわべだけではない生の事実を拾い出して下さることを期待しています。

ヒアリングチーム委員は、8月中旬に予定されている各社作打ちへの参加を皮切りに、8月下旬に開催される全体講義の一環として行われるグループミーティングへの参加等々、単に各制作ラインの作画室を折に触れて訪問するだけでなく、プロジェクトの要所をメインスタッフの方々と共にすることで、良質なヒアリングの前提となる信頼関係・仲間意識の醸成に努めていただくこととしています。

ヒアリングの結果は、書面にまとめられた上、アニメーター育成検討委員会に提出され、その検討を経た上で、年度末に提出される報告書に記載されます。

このようなヒアリングチームの役割を果たしていただくためには、アニメーター育成検討委員会との連携が重要です。そこで、アニメーター育成検討委員会には、ヒアリングチームからもオブザーバーとしてご参加いただき、育成方針策定の過程を直接見聞きしていただくことにより、情報と意識の共有を図っています。

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プロジェクト事務局側で育成を担うのは、アニメーター育成検討委員会と今回ご紹介したヒアリングチームです。プロジェクトの柱はあくまで現場のOJT([On the Job Training]=実際の作品制作の過程における計画的指導)にありますが、プロジェクトでは、今回触れた全体講義などのOFF-JT([OFF the Job Training]=作品制作を離れた講義等)も併用しています。

全体講義の第1回までは既に1ヶ月を切っており、こちらについても準備作業が急ピッチで進められています。全体講義は、原則として4社のメインスタッフが全てご参加いただくものです。(株)ピーエーワークスさんからは、富山から14名の若手原画を含む皆さんがおいでいただけることになっています。

これらOFF-JTの構成とそのねらいについては、記事を改めてご紹介させていただきます。

2010年7月25日日曜日

制作ラインの運営方針

プロジェクトに参加いただく4社、4つの制作ラインの運営方針についてご案内します。

プロジェクトには、4つの制作会社((株)アセンション、(株)テレコム・アニメーションフィルム、(株)ピーエーワークスおよび(株)プロダクション・アイジー)にご参加いただいています。各社にお願いしている制作ラインの運営方針は、主として次のとおりです。

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1.社外に動画、仕上げ、撮影等の工程を外部委託(再々委託)する際には、事務局による事前の書面承認が必要
  
アニメ制作は、一般に社内で完結するものではなく、美術、撮影その他含め、社外の方々のご協力が必要です。一方、プロジェクトは公共事業という性質上からも、また制作の実態把握という調査研究の必要性からも、再々委託を自由に認めるというわけにはいきません。

そこで、各社が、社外にプロジェクトの業務の一部をお願いする場合には、事前にその旨をプロジェクト事務局にお届けいただき、その承認を得ていただかなければならない、という仕組みを採用しました。これは、同様の下請構造をもつ他業種では普通に用いられている仕組みです。

承認を要する対象には、美術や撮影といった外部の会社や団体だけでなく、社員ではないフリーランスのアニメーターなどの個人も含まれます。法的にみれば、作品毎の契約で働いたり、一定期間内をある特定のスタジオに「所属」して働くアニメーターも、その制作会社やスタジオとは別個の存在です。そこで、各社からご提出いただく「スタッフリスト」には、こうした方々のお名前や所属についてもご記入をお願いしています。

2.社内処理が必要な作画工程は原画まで

プロジェクトに参加の各社には、作画工程のうち、原画に関しては社内での処理をお願いしています。

プロジェクトでは、アニメの制作工程のうち、プリプロダクション(絵コンテ等)は、監督ご自身が主として制作いただくことをお願いしています。その後、作画工程(プロダクション)はおよそ、原画・動画・仕上げ、美術・背景、3DCGと3つに分かれます。

  これら3つのうち、美術・背景、3DCG、それに動画・仕上げについては、1番の手続と3番の国内処理を守っていただく限り、社外に再々委託をしても構いません。これは、我が国におけるアニメ制作の実情を考慮したものです。

これに対し、原画工程(作打ち後、レイアウトから原画まで)については、各社に設置される作画室という物理的な1室の中で、その全てが行われなければなりません。作画室とは、監督、作画監督、作画監督補、中堅原画アニメーター、そして若手(原画)アニメーターの全員が集まり、プロジェクト作品を制作するための場所です。「作画室」の場所、開室時間(例:朝10時から18時まで)、休日等については、予め各社から、プロジェクト事務局宛にお届けいただいています。

もちろん、これらのスタッフのうちには、この作品限りの契約で各ラインに参加される、フリーランスや他社所属のアニメーターも含まれます。その意味で、このルールは「参加アニメーターの全てが社員でなければならない」というほど厳しいものではありません。しかし、事業の趣旨から、「原画以上の作画チーム」については、各社で文字通り1箇所に集まり、チームとして育成と作品づくりに専念することが期待されています。

3.プロジェクトに関する業務処理は、全て日本国内で完結すること

プロジェクトの各工程は、全て日本国内で処理されなければならず、国外に下請けに出すことはできません。

一般に、商業アニメの動画や仕上げ工程に関しては、その8割以上が日本国外で処理されているといわれています。今回のプロジェクトでは、貴重な税金を使わせていただいており、国内で動画を担当されているアニメーターの方々の育成をも実現するため、海外への下請が禁じられました。1番に記載した「再々委託の原則禁止」は、国内処理を確認するための取り組みでもあります。

4.主なスタッフのプロジェクトに対する「専念義務」

各制作ラインの主なスタッフ、すなわち作画監督、作画監督補、中堅原画アニメーター、そして若手(原画)アニメーターについては、それぞれ程度の差がありますが、約3ヶ月間におよぶ作画期間中、プロジェクトに対する「専念義務」を負っていただきます。

もっとも厳しい義務を負うのは、若手(原画)アニメーターです。以前の記事でもご紹介したとおり、若手アニメーターは作画期間中、プロジェクト以外の仕事をすることはできません。作画室開室時間中は、原則として作画室にいなければならず、それ以外の時間や休日に他の仕事を掛け持ちすることも禁じられています。これは、通常よりも単価がよく、ある程度の収入は保証される代わり、期間中は作品鑑賞、デッサンやアニメーション技法の勉強等、普段はなかなか取り組めない自己研鑽に取り組んで欲しいという趣旨です。

これに対し、作画監督、作画監督補、中堅原画アニメーターについては、作業室の開室時間中に限り、作業室の在室とこのプロジェクトに関する業務のみを行うことをお願いしています。なお、監督についてはこの限りではありませんが、例えばピーエーワークスの吉原監督は、作画期間中は基本的に富山のスタジオに詰めておられるご予定と伺っています。

5.制作予算の配分と作画予算の固定

各社に提供される制作予算は、原則として各社にご提出いただいた予算表に記載の用途以外に流用することはできません。とりわけ、プロジェクト計画書15頁イで「作画料固定部分」としている作画予算については、プロジェクト事務局の事前の承認なしに一切の変更をすることはできません。

また、原画の平均単価2万円、動画の平均単価600円といった金額は、すべて参加するアニメーターや演出の方々の手取り額です。受託制作会社はもちろん、動画が社外に再々委託に出された場合であっても、作画料固定部分に書かれた金額から、管理料などの名目で別途手数料を差し引くことはできません。

6.ヒアリングの実施と各種調査

作画期間中、各制作ラインには、ヒアリングチームからそれぞれ担当の1名が随時、ヒアリングにお邪魔します。作画室の場所、開室時間と休日をあらかじめ届けていただくのは、このためでもあります。ヒアリングチームには、各制作ラインに参加の若手アニメーターの方々にとって、気軽な悩み相談などもできるよう、なるべく頻繁に特に事前の予約などもなく、作画室に行って様子を見たり、話を聞いたりしていただくよう、お願いしています。

そのほか、1番から5番までに記載したルールがきちんと守られたかどうかについては、年度末の事業終了時に作成される報告書に記載されます。そのため、プロジェクト事務局は、各社に対し、必要な資料や情報をご提出いただくよう、お願いできることとされています。

そのようなことはないと確信していますが、万一、重大なルール違反が見つかった場合には、公共事業という性質上、プロジェクト事務局としても、文化庁の要請に基づき、契約解除も含めた厳格な対応を検討していかなければならないこととなります。

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相当長文となってしまいましたが、これでもプロジェクトの「ルール」は全てではありません。制作会社の皆さんには、それぞれのルールに関する多数の書類の作成・提出をお願いしており、よくご対応いただいております。全く新しい事業なので、書類のひな形を作成するのも、そのひな形や方針に沿って書類を作成するのもなかなか大変です。しかし、きちんとした資料・データの蓄積がなければ、将来に繋がっていきません。プロジェクトに参加の皆様のご理解・ご協力を仰ぎつつ、今後も対応を継続してまいります。

2010年7月23日金曜日

若手アニメーター育成プロジェクトに関するご意見を承る会・開催予定のご案内

若手アニメーター育成プロジェクト(以下「本プロジェクト」といいます。)について、日頃よりご興味・ご関心をお寄せいただき、ありがとうございます。

本プロジェクトに関し、「受託制作会社内における制作が義務づけられていない動画および仕上げの各工程について、特定の企業または団体等がこれを不当に独占して不公正な経済的利益を受けるのではないか」といった事実と異なる風評が一部で流布される等、本プロジェクトの内容および趣旨について、未だ十分にご理解いただけていない状況があるようです。

本プロジェクトが真に効用を発揮するためには、本プロジェクトの趣旨および内容に関する適切にご理解いただき、その成果をアニメーション業界全体で活用していただく必要があります。そこで、プロジェクト事務局では、今秋以降、アニメーション事業者およびアニメーターを主としたアニメーション制作関係者の皆様を対象に、本プロジェクトに関するご意見を承る会を開催することとしました。

会では本プロジェクトに関するご説明のほか、来年度以降も本プロジェクトが継続するようであれば、その内容に関係者の皆様のご意見をなるべく反映し、より良いプロジェクトとしていくため、広くご意見を承りたいと考えております。具体的な日程等につきましては、固まり次第、改めて本ブログ等でご案内を差し上げます。どうぞよろしくお願いいたします。

2010年7月22日木曜日

アニメーター育成検討委員会について

このプロジェクトは、その正式名称が「若手”アニメーター”等人材育成事業」と冠しているとおり、アニメーターの人材育成を主たる目的としています。プロジェクトの根幹、アニメーター育成の具体的方針を定めるのが、アニメーター育成検討委員会です。

アニメーター育成検討委員会には、椛島義夫さん((有)夢弦館)、神村幸子さん(フリー)、川元利浩さん((株)ボンズ)、後藤隆幸さん((株)プロダクション・アイジー)、4名のアニメーターの方々に委員としてご参加をいただくことができました。既に2回の委員会が開催されており、先週開かれた第2回委員会には、オブザーバーとして大塚康生さんにもおいでいただきました。


プロジェクトの人材育成に関する基本方針は、OJT(On the Job Training)=実際の作品制作の過程における計画的指導を主としつつ、OFF-JT(OFF the Job Training)=作品制作を離れた講義等の2つを、必要に応じて併用することとされています。

やや脱線しますが、プロジェクトが作画予算について用途制限を設けているのは、このOJTが理由です。プロジェクトに参加する若手(原画)アニメーターの皆さんは、作画期間中、プロジェクト以外の作品を担当することができません(専念義務)。その上、リテイク等についても、作画監督等による描き直しは基本的に認められておらず、若手(原画)アニメーターが2度3度と描きなおすことが求められます。このような方法では、当然、作業効率は著しく悪化すると予想されます。そこで、若手(原画)アニメーターの方々が、作画期間中、生活の心配をしないで作品制作と勉強に専念していただくため、いわゆる相場よりも高い単価が設定されました。


第2回委員会の主な議題は、OJT手法の検討、OFF-JT(全体講義および個別講義)の構成等でした。最初の全体講義が8月下旬に予定されているOFF-JTに関する解説は次回以降にさせていただくとして、この記事では、プロジェクトで採用されることとなったOJT手法のあらましについて、ご紹介します。

アニメーションの技法について、私自身は本来語るべき知識も技能も有していませんが、ウォルト・ディズニーのフルアニメーションが、いわゆる現代における2Dアニメーションの源流の1つであることについては、おそらく概ね異論のないところだろうと思います。

一方、アニメーターに必要な技能とは何かという根源的な問いかけについて、よく言われるのが”演技"です。アニメーション監督の片渕さんは、インタビュー記事の中で「アニメーターとは紙に絵を描いて演技をする俳優だ」「”演技”ができるアニメーターは必ず評価される。監督やプロデューサーにも見る目はあるので、その評価は収入につながるし、よそからも声がかかるようになる」と述べられています(週刊東洋経済、2010年7月24日号、84頁)。

プロジェクトにおける”若手(原画)アニメーター”については、新人ではなく、原則として動画アニメーターまたは原画アニメーターとして一定期間以上稼働した経験を有する方々とされています。こういった若手アニメーターの方々に対する各委員の評価として、止め絵やイラストは上手いというのがほぼ共通の見解でした。

そこで、”演技”力の向上の基礎となる”動かすことを考えながら描いていく”訓練として、大塚さんのまとめられた「アニメーターのための16のポイント」を読んでいただいた上、作画期間中、毎週サムネイル課題に取り組んでいただくこととなりました。

「アニメーターのための16のポイント」は、大塚さんらが1982年夏、ロサンゼルスで受けたレクチャーのポイントをまとめられたものです。講師はフランク・トーマスオリー・ジョンストン、いわゆるディズニーの”ナイン・オールドメン”のお二人です。受講者は、高畑勲さん、宮崎駿さん、大塚康生さん、友永和秀さん、富沢信雄さん、丹内司さん、丸山晃一さん、田中敦子さん、近藤喜文さん、篠原征子さん、山本二三さん、竹内孝次さんの計12名。何れも錚々たる顔ぶれですね(以上、大塚康生著『作画汗まみれ』増補改訂版・徳間書店、205頁より)。

サムネイルとは、「アニメーターのための16のポイント」の12番目に挙げられています。具体的には、動画用紙1枚に20から30程度の小さな絵を、簡単に手早く(30分~1時間程度)、ラフでよいので描きます。その中で、ある場面における一連の動作、例えば、「おばあさんがよっこらしょと立ち上がる」という一場面をできるだけ細かく、動きを分析して描きます。”紙の上で演技をする想像力”を養うのが目的です。

サムネイルは、今回のプロジェクトが取り組むOJT手法の一例に過ぎません。アニメーター育成検討委員会では、各受託制作会社で作品制作に取り組む監督、作画監督、作画監督補や中堅原画の皆さんにお願いする人材育成手法について、取りまとめ作業が急ピッチで行われています。


次世代を担う優れたアニメーターを育成する、と言葉でいうのは簡単です。しかし、そんな方法があればもうやっている、それが分からないから苦労しているんだといった辺りが、現場の皆さんの肌感覚でしょう。このプロジェクトでは、過去数十年に渡って、先達の多大なご苦労の上に集積された様々な情報や手法を基に、もっとも確実と思われる方法論を適用し、その過程や結果に関する情報をきちんと集め、それをまた分析していくことを毎年重ねていくことによって、現実に選びうる最も優れた方法論を見つけ出していきたいと考えています。

上記のうち、アニメーター育成の過程に関する情報収集を担うのが、ヒアリングチームです。ヒアリングチームの役割等については、また記事を改めてご紹介させていただきます。

2010年7月15日木曜日

全体会議を開催しました

7月12日(月)、文化庁、受託制作会社4社とプロジェクト事務局が参加して、若手アニメーター育成プロジェクトに関する全体会議が開催されました。



会議では、各社から作品(企画)の概要、プロジェクト参加の理由、このプロジェクトを通じてアニメーターの育成に対し、どのような方針で取り組みたいと考えているか等について、それぞれ発表をいただきました。各社各様、それぞれのお立場と捉え方で、このプロジェクトを関係するスタッフ、自社、そしてひろくは業界のために活かそうとしている真摯な姿勢と議論を直接、伺うことができました。

こうして、業界で日々頑張っておられる皆様の生の声が文化庁の担当者の方々に直接伝わることも、このプロジェクトの意義の1つであるように感じました。また、日本でアニメーションを作ること、アニメ制作会社の今後、アニメーターを育てることやアニメーターのキャリアパス等々について、各社のプロデューサーの方々の率直な意見交換も聞き応えがありました。

各社の企画内容については、今月下旬ころから、このブログにてご紹介していく予定です。

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8月後半の作画インに向けて、今これからがプリプロダクションの山場です。本プロジェクトにご参加いただく若手アニメーターの方々を含めたスタッフリストも、ほぼ固まりつつあるとのこと。現時点の見込みでは、三十数名の若手原画アニメーターの皆さんにご参加いただける見込みです。

次回は、これら若手原画アニメーターの皆さんについて、「限られた時間と条件の中で、育成効果を最大化するにはどうすればよいか」、ご検討を頂いているアニメーター育成検討委員会の活動状況について、ご紹介したいと思います。

2010年6月19日土曜日

作品制作団体の選定について

6月16日(水)、若手アニメーター育成プロジェクトにご参加いただく作品制作団体として、4社の採択に関するプレスリリースを公開しました。

お陰様で、5月21日(金)の応募締切までに、プロジェクト事務局の想定を超える16社からご応募を頂戴しました。この記事では、作品制作団体の選定を担当する選定・評価委員会と選定プロセスについてご説明します。

作品制作団体の選定は、選定・評価委員会により行われました。選定・評価委員会は、JAniCA(一般社団法人日本アニメーター・演出協会)役員でなく、JAniCAと直接経済的利害関係を有しないアニメーション業界内の有識者、若干名で構成されています。委員の人選については、日本アカデミー賞等の類例に倣い、非公開とさせていただきました。これは、委員に対する付け届け等の不正な働きかけを防止するための措置です。なお、委員の構成等については、プロジェクト計画書11頁に記載しています(募集案内添付資料2)。

今年度の委員は、プロデューサー、アニメーション監督および作画監督経験を有するベテランアニメーター、それぞれ均等の割合で構成されました。プロデューサーについては、商業アニメーションに関するアニメーター育成、それにオリジナル作品の開発による制作会社の活性化という観点に基づき、テレビ局やソフト会社でアニメーションを担当されている方々にもお願いをし、ご参加いただくことができました。

委員会は、途中1回、30分程度の食事休憩を挟み、約8時間近くにわたって行われました。先ず4時間近くをかけて応募書類の読み込みがされた後、更に約3時間、作品制作団体の選定に関する議論が重ねられました。採択された以外にも意欲的なご応募の数々があり、選定は困難を極めましたが、最後は全ての委員の意見が1つにまとまり、今回発表の結果に至りました。

今年度は初年度事業のところ、周知期間・募集期間とも限られていたにもかかわらず、多くの意欲的なご応募を頂戴することができました。プロジェクト事務局一同、厚く御礼申し上げます。来年度以降もこの事業が継続していくよう、作品制作団体となった4社の皆様と協力して、プロジェクトを進めて参りたいと存じます。


記事の最後に、選定結果発表前、ある応募社の代表の方から頂戴したお言葉をご紹介します。
「今回の応募は、規定をブッチギッて、中小スタジオとしての意見として提出したので、落選は覚悟の上です。来年度もあるのであれば、是非ご検討ください」

この方からは、事業説明会当日の夜にも非常に意欲的なお問い合わせを頂戴しました。ご意見の要旨は、
・今年度の1社あたり事業予算である3800万円という金額は、作画関係に用途指定を行っていることもあり、必ずしも十分ではない。
・事業を通じて制作した作品そのものに経済的価値を見いだすのであればともかく、制作会社として今回の事業予算の枠内のみで一切の持ち出しなしで済ませるためには、社内に作画用の場所がある等の事情が必要であり、対象がある程度以上の規模の制作会社に限定されている。
といったものでした。

プロジェクトの趣旨・内容については、政治や行政の事情も関係するため、JAniCAやプロジェクト事務局の一存だけで左右できるものではありません。しかし、こうやって頂戴した貴重なご意見の数々は、全て文化庁に対してご報告しております。また、この事業が来年以降も継続する場合には、可能な限り、プロジェクト計画に反映させていきたいと考えております。この事業については、上記でご紹介した以外にも、実に多くの皆様からご意見を頂戴しております。この場を借りて、改めて御礼申し上げます。

前回記事に掲載したご意見を承る機会、実施時期が8月以降にずれ込んでしまいそうですが、事業期間中に是非とも実施したいと考えておりますので、その際は何卒よろしくお願いいたします。

2010年5月8日土曜日

若手アニメーター育成プロジェクト・募集案内を公開しました

文化庁平成22年度事業、”若手アニメーター育成プロジェクト”の募集案内をJAniCAのWebサイトにおいて公開しました。

募集案内の添付資料2として、プロジェクト計画書も開示しています。制作会社様等の募集期間は、5月21日(金)迄です。情報の混乱を防ぐため、少なくともそれまでの間は、プロジェクト内容、特に予算配分等の関係する管理運営面については、原則として追加情報の開示は行わない方針です。事業説明会の内容に関しては、ご参加いただいた方がBlogに記事をUpしてくださっているようです。

なお、このプロジェクトは始まりに過ぎません。プロジェクト計画をご検討いただいた皆様から、計画の内外を問わず、全体状況をより良い方向へと動かしていくためのもっと素晴らしい方策をお寄せいただけることを心より期待しております。お考えを頂戴する機会としては、受託制作会社選定後の6月ころを考えております。アニメ界隈の皆様、どうぞよろしくお願いいたします。

2010年5月4日火曜日

若手アニメーター育成プロジェクト

この度、JAniCAは文化庁の平成22年度若手アニメーター等人材育成事業(若手アニメーター育成プロジェクト)にかかる業務の採択を受けることができました。私も、JAniCA副代表でアニメーターの神村幸子氏と一緒に、プロジェクトマネージャとしてこのプロジェクトに参加します。

この事業は、メディア芸術であるアニメーションの振興に向けた取組の充実を図るため、将来を担う優れた若手アニメーター等の育成を推進し、もって我が国アニメーション分野の向上とその発展に資することを目的として、平成22年度より新規事業として実施されることになったものです。

プロジェクトでは、募集にご応募いただいた制作会社等の中から、アニメ業界内の有識者による選定・評価委員による選定を受けた4つの制作会社において、一線級の監督の下、若手アニメーターを積極的に起用した制作スタッフにより、平成23年1月末までに、それぞれ現在テレビ放送で主流の30分枠に合わせたOP、ED含め23分程度の短編オリジナルアニメーション、計4作品が制作されます。プロジェクトの主目的は、この制作過程におけるオン・ザ・ジョブ・トレーニングとその実践によるノウハウの獲得・普及です。なお、プロジェクト終了後における作品の著作権は、原則として各制作会社に帰属することになり、また主要制作スタッフについては一定の二次配当権が与えられる見込みです。

年度内の作品完成という厳しいハードルをこれ以上高くすることのないよう、プロジェクト事務局では可及的速やかにプロジェクトの実施準備を進めています。プロジェクト計画書を含めたプロジェクトに関する資料は、5月7日(金)の応募社向け説明会開催後、JAniCAホームページで公開を予定しています。

2010年4月24日土曜日

JAniCAって何?

先ずJAniCAについて、私なりの理解をご説明しておきます。当然ですが、この記事を含め、このブログの記事一切は私の個人的な見解であり、JAniCAとしての公式なコメントではありません。念のため。

JAniCA(じゃにか)は、正式名称を「一般社団法人 日本アニメーター・演出協会」といい、アニメーターや演出家などのアニメ制作関係者、約700名強(2010年3月末現在)が所属する業界団体です。JAniCAは、英語名称であるJapan Animation Creators Associationから取った略称です。

JAniCAは、2007年10月に発足し、2008年5月に無限責任中間法人として法人化、その後、法改正に伴い2009年11月に一般社団法人へと改組(かいそ)しました。JAniCAは理事会設置一般社団法人ですので、JAniCAの運営は、6名の理事と1名の監事(私です)によって構成される理事会によって行われ、更に年に1度、会員総会(社員総会)が開かれています。また、JAniCAは法人化以前には、「運営委員会」という組織による運営を行っていました。そこで、現在でも理事および監事のほか、運営委員の方々が一種のオブザーバーとして、毎月1回の理事会に参加されています。

JAniCAのやっていること、やってきたことは、およそ新人教育、福利厚生および調査研究の3つです。

新人教育としては、主に若手アニメーターらを対象としたパース講座や演出志望者を対象とした絵コンテ講座などを実施してきました。

福利厚生としては、2008年6月の文芸美術国民健康保険組合への団体加入を通じ、アニメ業界で圧倒的多数を占めるフリーランスのアニメーター、演出家やその他の業界関係者に対し、有利な健康保険を提供しています。

調査研究については、2008年4月に行った制作単価の予備調査、2008年10月から12月にかけて実施したアニメーター実態調査、2009年度に日本動画協会(http://www.aja.gr.jp/)から再委託を受けて実施した、経済産業省のアニメ産業コア人材育成事業などがあります。実態調査については、2009年5月に東京大学で実施したシンポジウムの際、報道もされましたので、ご存じの方がおられるかもしれません(20代アニメーターの平均月収は10万円以下――アニメ産業が抱える問題点とは?)。

そのほか、JAniCAでは、業界内外からの各種問い合わせやお申し出に対する対応、マスコミからの取材対応などをしています。今年は、初めて東京国際アニメフェア2010にも出展させていただきました。また、これは副代表である神村さんが主として関わっておられる事業ですが、2010年2月にはJAniCAが協力という形で新しいアニメスタジオ「アニタス神戸」も開所されました。

これらの動きは、JAniCAを以前からご存じの方であれば、ある程度把握しておられるかもしれません。ただ、その意図や関係については、これまであまり触れられてこなかったように思います。このブログでは、そういったことについても、私なりの理解をご紹介していきたいと考えています。

最後に、JAniCAの運営を支えている財政面に触れておきます。JAniCAの収入は、その殆どが会員からの会費収入で、その他の収入源としては、寄付や事業収入(今年度は白書の売上げなど)があります。昨期(平成20年度)は約15万円の赤字でしたが、今期は会員増もありなんとか黒字を計上できる見込みです。会計報告は、JAniCAのWebサイトで公開されています(平成20年度はこちら)。

今のところ、JAniCAに専属の事務員さんはいません。私を含め、運営に関わっている方々は、常務(理事会への出席など、JAniCAの運営に関する業務)に対する固定的な報酬がないという意味では基本的にボランティアです。会員の入退会や保険処理に伴う事務作業は、外部に事務委託しています。月に1回の理事会は、杉並アニメーションミュージアムの1室をお借りして開催されています。昨期までは、交通費や事務経費などの必要経費などについても、相当程度が自己負担という状況でしたが、今期は事務経費をなんとかまかなえる程度になりました。

とはいえ、JAniCAも徐々に具体的な実働を伴う作業が増えてきました。そこで、常務以外の活動に関する人件費に関しては、外部収入のある事業についてはその収入の範囲内、つまり、一般事業であれば社会通念、官公庁事業であれば会計検査院のルールと所管官庁の監督に従って支払いを行い、外部収入のない事業については、会費収入を原資として、内部規定に基づく支払いをすることを基本方針として対応しています。

はじめに

私は、企業法務を主に担当させていただいている弁護士です。縁あって、2008年1月ころから、JAniCA(日本アニメーター・演出協会)のお手伝いをさせていただいてます。今は、監事(かんじ)といって、普通の会社でいえば監査役的な立場を務めています。

アニメ業界とは縁遠かった私ですが、JAniCAに関わらせていただくようになって以来、多くの皆さんのご協力を得て、業界について実に様々な勉強をさせていただきました。アニメ制作について、関心のあるファンの皆さんの間では、以前から種々の問題が議論され、また近年は制作費等の情報流出が生じる度に、ちょっとした話題になったりしています。これらの問題については、既に多くのサイトやブログが論考や意見を寄せておられ、また各種論文や行政の報告書なども出されています。どれも大いに参考にさせていただきました。改めて関係者の皆様に感謝申し上げます。

JAniCAは、”アニメーター・演出家を中心とするアニメ制作関係者の環境改善を実現する”というJAniCAの理念を具体化するため、2008年春ころ以降、関係者の皆様の暖かいご理解・ご協力を得て、様々な取組みを進めてきました。フリーランスのアニメーターが加入できる健康保険やアニメーターの労働実態を初めて明らかにした実態調査などについて、ご存じの方がおられるかもしれません。

しかし、JAniCAの活動の実態や個々の取り組みの趣旨・目的について、ファンや業界関係者の皆様はもちろん、JAniCA会員の皆さんにも十分にご理解いただいているとはいえないように思います。そこで、取りあえず気軽なところで「JAniCA」ではなく、「JAniCA関係者がJAniCAを語るブログ」としてこのブログを始めることにしました。

このブログでは、監事というJAniCA関係者としての立場から、JAniCAとその活動について、弁護士という法律実務家の立場から、アニメ制作業界の構造やアニメ制作界隈の問題点について、記していければと思っています。ご意見・ご要望は、Twitter(DaisukeP)までお寄せください。