2010年7月30日金曜日

「育成検討委員会からの提言」のご紹介

前回の記事でご紹介した「育成検討委員会からの提言」の内容をご紹介します。

この提言は、アニメーター育成検討委員会が、各制作ラインにおいて実践いただきたいOJTの方針を19のポイントにまとめたものです。既に各社宛には、今回のプロジェクトにご参加いただく主要スタッフの皆様にお配りいただくよう、お願いしています。

OJTとは、現場における具体的仕事を通じた計画的指導です。具体的な計画や方針なしに、ただ「背中を見て覚えろ」というのとは異なります。各制作ラインで実際の指導を担われる監督、作画監督および作画監督補らの皆さんには、普段と異なるやり方でご負担をおかけすることになりますが、意欲的に取り組んでいただけるものと期待しております。

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文化庁・平成22年度若手アニメーター等人材育成事業
アニメーター育成検討委員会

若手原画育成On the Job Trainingの中でおこなってほしいこと


若手アニメーター育成に関して、演技指導は監督が、作画技術に関しては作画監督が指導すると思います。育成検討委員会での議論の結果、今回は各社の自主的な取り組みを尊重し、それぞれの育成目標達成に重きを置くことになりました。

したがいまして、育成検討委員会からおねがいすることは、若手原画向けのアニメーター育成効果を検証するためのサムネイル課題以外には、非常に基本的なワークフローに関することのみです。

育成プロジェクトのなかで以下の取り組みをおこなってください。

a) 制作は、若手原画に対し、「アニメーターのための16のポイント」(添付資料)とこのプリントを各1部ずつ配布してください。

b) 制作は、作打ちの前に、アニメーターが絵コンテを読み込む時間を作ってください。先に読んでおかないと、作打ちで的確な質問ができず、コンテ内容がよく理解できません。

c) 作打ちには、作画監督、作監補、中堅原画、若手原画、社内動画も参加してもらってください。

d) 監督から、作打ちは何のためにするのか、原画が理解するべきポイントはどこかを教えてください。打ち合わせでは、わからないことは質問し、聞いたことはメモを取るように指導してください。

e) 社内動画はもちろん、外注動画にも絵コンテを読ませてあげてください。現実的に考えて、返却する回覧用絵コンテでかまいません。作品内容もカットの意味もわからず動画するのは楽しくないでしょう。動画が単純作業になってしまいます。

f) 社内動画用に動画用絵コンテを1冊用意してあげてください。

g) ラッシュチェックは作画監督、作監補、中堅原画、若手原画、社内動画の全員を呼んでおこなってください。

h) 監督から、ラッシュチェックは何のためにするのか教えてください。各工程の担当者がおのおのの立場でチェックする意味を教えてください。

i) ラッシュリテイクは作画監督が直してしまうのではなく、できるだけ原画本人に返してください。ラッシュリテイクの意味を学ぶためです。

j) プロジェクトに参加するアニメーターには、次のとおり専念義務が課されています。特に、若手原画は、作画期間中の3ヶ月間、この作品以外の仕事に関わることはできません。できるだけ若手原画本人も3ヶ月間の目標をたて、それは美術書1冊の模写でもかまいませんが、余暇は自分の将来における財産を作るための勉強に費やしてください。
○作画室の開室時間中、プロジェクト以外の仕事をしてはならない方
作画監督、作画監督補、中堅原画
○作画期間中、プロジェクト以外の仕事をしてはならない方
若手原画

k) 監督リテイク、作画監督リテイク等は、黙って机の上に置いていくのではなく、本人を呼んで考え方を説明し、自分で描き直をしてもらってください。(最終的には描き直しになったとしても、考える習慣づけのために最初は自分で描いてもらってください)

l) 動画リテイクも社内、社外にかかわらず、可能な限り動画本人を呼び、教える形でリテイクしてください。ふだんできない勉強をしてもらうための単価設定です。

m) 社内動画は、この作品で担当した動画のすべてについて、動きと演技については原画に(定時から作画室にいます)チェックを受けてください。そのカットの動きを一番理解しているのは原画です。動画注意事項に関わる動画の品質維持については、通常どおり動画検査におねがいしてください。

n) 若手原画は、自分が担当した原画の社外動画も、動検前に自分で確認してください。動きや演技でまちがいがあればメモを入れて動検へ回すようにします。動画が割れない原画を描いていないか、動画がまちがいやすい指示をしていないか学ぶためです。

o) 若手原画は、必要な小物設定等を、まず自分で調べ、設定を描き、作画監督に見てもらってください。(最終的には作監が描き直したとしても)仕事をするとき、なんでも設定を待つのではなく、調べて学ぶ習慣をつけるためです。

p) 監督および作画監督は、カット分けではバラ出しをせず、まとまったシーンごとに割り振ってください。とくに若手にはできるだけ連続したカットのみを割り振り、シーンに責任を持ちシーンを自分で作って行く経験をさせてあげてください。

q) 監督および作画監督は、若手原画が30カット以上を担当できるカット割りをしてください。あるていどのカット数を担当しないと、必要な経験ができないからです。(※募集案内P14 (2)ア④ 若手原画12人で1人あたり32カット)

r) 監督、作画監督および制作は、若手原画の月収モデル(※P15 ウ)に配慮し、若手原画の月収が平均20万円ていど以上になるよう、カット分けしてください。若手原画には生活に困らない月収を確保する見込みと引き替えに専念義務が課されており、これがあるからこそ、描き直しをくり返す育成方法が可能になっているのです。事業主旨にあわせ、くれぐれも若手原画の平均収入維持にご協力ください。

s) 若手原画は毎週1回、1時間程度、サムネイルの課題に取り組んでください。制作は毎週回収し毎週末に原版を事務局へ提出してください。
以上

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いかがでしたでしょうか。少しでも、各制作ラインの稼働イメージを掴んでいただければ幸いです。実際にはこの「提言」を受け、更に各社なりの工夫を申し出てこられる例もありました。したがって、厳密にいえば制作スタイルはそれぞれ異なる部分も出てくることになると思われます。しかし、今回のプロジェクトにおける育成は、今回ご紹介した基本方針に則って行われます。

さて、理念や制度の説明が続いてしまいました。次回か、次々回あたりではいよいよ、各社の企画についてもご紹介していきたいと思います。どうぞお楽しみに。